著者
西谷 和彦
出版者
神奈川大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

茎寄生植物であるアメリカネナシカズラ(Cuscuta campestris Yuncker)は茎で他の被子植物の茎に巻き付くと、接着面側の皮層組織から吸器という分裂組織を発生させる。吸器の最前面の細胞列には探索糸細胞が並び、これらが伸長させながら宿主組織内に浸入する。探索糸は伸長を続け、宿主の維管束領域に浸入すると管状要素に分化し、最終的には宿主道管と連結し、水や養分を全て宿主より調達し、繁殖する。吸器形成から道管連結に至る一連の過程の分子メカニズムは今、尚、ほとんど未解明である。我々の今年度の研究により、探索糸が二段階の核内倍加を経て、伸長することをまず明らかにした。ついで、核内倍加と伸長の過程が宿主由来のエチレンにより促進されることを、シロイヌナズナを宿主に用いた解析により明らかにした。すなわち、アメリカネナシカズラが野生型のシロイヌナズナに巻き付くと、1-aminocylclopropane-1-carboxylic acid(ACC)合成酵素の遺伝子、ACC SYNTHASE2(AtACS2)およびACC SYNTHASE6(AtACS6)の発現が上昇するが、エチレン欠乏シロイヌナズナ変異体を宿主とした時には探索糸の伸長や核内倍加が抑制され、これらの抑制はACCの投与によって相補された。一方、シロイヌナズナのエチレン感受性変異体etr1-3を宿主にした時には、探索糸の伸長抑制は観察されず、宿主植物のエチレンシグナル伝達系は、アメリカネナシカズラの寄生には関与しないことも明らかにした。更に、エチレンによるアメリカネナシカズラの核内倍加促進の機構についても分子解剖を行なった。本成果の学術的な意義は、寄生植物が寄生行動の過程で宿主が発する化学シグナルを、寄生植物が寄生行動のゴーサインと認識し、寄生行動を一層推進させるメカニズムの存在を実証した点にあると考えている。