著者
熊谷 純 見置 高士 菓子野 元郎 渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.26, 2011 (Released:2011-12-20)

ビタミンCの反応性については、G.R. Buettner等が詳しく研究している。L-アスコルビン酸(AscH2)のフラン環の2つのOH基はpKaが4.1と 11.8であるため,弱アルカリ性の生体内では1つのプロトンが解離してL-アスコルビン酸アニオン(AscH–)の形で存在している。脂溶性抗酸化剤として知られるビタミンE(α-トコフェロール)は,酸化脂質を還元する一方で自身は酸化されてα-トコフェロールラジカルとなり、その性質はわずかに酸化剤の性質を持つようになるが,AscH–はα-トコフェロールラジカルを還元してα-トコフェロールへと戻す役割を果たす。その際,AscH–は水素原子(あるいは電子とプロトン)をα-トコフェロールラジカルに渡してアスコルビン酸ラジカルアニオン(Asc・–)となる。Asc・–は不対電子が3つのケトンを含むπ共役系にあるため、その還元力は低く酸素を還元してsuper oxideを生成することはない。さらに、Asc・–は不均化反応でAscH–とフラン環の2つのOH基がジケトンになったDHAとなり、AscH–が回収される。DHAは生体内においてGSHとの酵素反応によってAscH–へと還元される。我々は放射線照射や培地移動放射線バイスタンダー効果によってハムスター細胞内に生成する長寿命ラジカルをESRで直接観測し、ビタミンCを照射後あるいは培地移動時に加えると突然変異を抑制し、長寿命ラジカルの生成も抑えられることを報告してきた。照射された細胞中に生成する長寿命ラジカルは、ビタミンCまたはN-アセチルシステイン(NAC)のどちらでも消去できたが、培地移動バイスタンダー効果によってレシピエント細胞中に生成するそれは、ビタミンCしか消去能がなかった。培地に加えられたビタミンCまたはNACは細胞質に取り込まれる。照射細胞に生成した長寿命ラジカルは細胞質に生成していると推測される。一方、培地移動バイスタンダー効果によってレシピエント細胞に生成する長寿命ラジカルは、ビタミンCを取り込む機能を有する膜タンパク(例えば、ミトコンドリアではDHAを取り込む働きのあるGLUT-1が知られている)をもつ細胞小器官に生成しているものと推測される。本結果は、長寿命ラジカルが関わるバイスタンダー効果の突然変異誘発機構を探る上でも重要な結果である。