著者
松井 理 橋本 優実 橋本 光正 岩淵 邦芳
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.111, 2011 (Released:2011-12-20)

53BP1は電離放射線照射によって誘発されたDNA二本鎖切断部位に集積し、その後の細胞周期停止(DNA損傷チェックポイント)、およびDNA二本鎖切断修復に関与する。 53BP1はその名の由来の通り、我々が癌抑制遺伝子産物p53と結合する蛋白質の一つとして初めて同定したものであり、両者は、53BP1のBRCTドメインとp53のDNA結合ドメイン、および53BP1のTudorドメインとp53のジメチル化Lys382を介してそれぞれ結合する。しかしながら、これまでに53BP1とp53の機能上の関連性については、あまり明らかにされていない。そこで我々は、53BP1がp53の機能にどのように関わっているのかを明らかにするため、正常なp53を持ついくつかのヒト癌細胞株について、RNAiによる53BP1のノックダウン後、X線照射によるp53の蛋白量の増加、p53のSer15のリン酸化、およびp21の発現を調べた。その結果、いずれの場合も53BP1のノックダウンにより阻害が認められた。また、この時、ATMのSer1981のリン酸化は、53BP1ノックダウンにおいて、ほとんど影響が認められなかった。 以上より、53BP1はp53活性化シグナル経路において、ATMの下流、p53の上流で働いていることが示唆された。
著者
谷 修祐 小嶋 光明 小野 孝二 伴 信彦 甲斐 倫明
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.249, 2011 (Released:2011-12-20)

放射線によって引き起こされるC3H/HeNマウスの急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia: AML)は、低線量でのヒトの白血病リスクを考える上で重要な実験モデルである。AMLを起こしたマウスの造血幹細胞では2番染色体の欠損およびその染色体に存在するSfpi1遺伝子の突然変異が確認されており、これらは骨髄の分化に重要な役割を持つPU.1の転写を抑制してAMLの発症に至ることが考えられている。しかし、AMLにおけるSfpi1遺伝子の突然変異について、ほとんどは点突然変異に起因し、その主な変異であるC:GからT:Aへのトランジションは自然突然変異によって生じるため、放射線によって発症する白血病のリスクを考えるためには2番染色体の欠損以外に放射線が自然突然変異率への影響を考慮する必要がある。自然突然変異は細胞が分裂する際に低確率で生じるものであるため、造血幹細胞を頂点とした各造血細胞の動態、および放射線の影響によってその動態がどのように変化するかを考慮することが重要である。本研究ではC3H/HeNマウスを用いた放射線照射実験より得られた造血幹細胞そして前駆細胞の分化、分裂のパラメータを元に、造血組織の各種動態を数理モデルで表し、各細胞数の時間的変化、およびその分裂回数をシミュレーションによる計算で求めた。また、Sfpi1遺伝子の自然突然変異確率に着目し、シミュレーションで得られた結果をもとに放射線によるマウスAML発症リスクを計算し、実験データと比較したので報告する。
著者
熊谷 純 見置 高士 菓子野 元郎 渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.26, 2011 (Released:2011-12-20)

ビタミンCの反応性については、G.R. Buettner等が詳しく研究している。L-アスコルビン酸(AscH2)のフラン環の2つのOH基はpKaが4.1と 11.8であるため,弱アルカリ性の生体内では1つのプロトンが解離してL-アスコルビン酸アニオン(AscH–)の形で存在している。脂溶性抗酸化剤として知られるビタミンE(α-トコフェロール)は,酸化脂質を還元する一方で自身は酸化されてα-トコフェロールラジカルとなり、その性質はわずかに酸化剤の性質を持つようになるが,AscH–はα-トコフェロールラジカルを還元してα-トコフェロールへと戻す役割を果たす。その際,AscH–は水素原子(あるいは電子とプロトン)をα-トコフェロールラジカルに渡してアスコルビン酸ラジカルアニオン(Asc・–)となる。Asc・–は不対電子が3つのケトンを含むπ共役系にあるため、その還元力は低く酸素を還元してsuper oxideを生成することはない。さらに、Asc・–は不均化反応でAscH–とフラン環の2つのOH基がジケトンになったDHAとなり、AscH–が回収される。DHAは生体内においてGSHとの酵素反応によってAscH–へと還元される。我々は放射線照射や培地移動放射線バイスタンダー効果によってハムスター細胞内に生成する長寿命ラジカルをESRで直接観測し、ビタミンCを照射後あるいは培地移動時に加えると突然変異を抑制し、長寿命ラジカルの生成も抑えられることを報告してきた。照射された細胞中に生成する長寿命ラジカルは、ビタミンCまたはN-アセチルシステイン(NAC)のどちらでも消去できたが、培地移動バイスタンダー効果によってレシピエント細胞中に生成するそれは、ビタミンCしか消去能がなかった。培地に加えられたビタミンCまたはNACは細胞質に取り込まれる。照射細胞に生成した長寿命ラジカルは細胞質に生成していると推測される。一方、培地移動バイスタンダー効果によってレシピエント細胞に生成する長寿命ラジカルは、ビタミンCを取り込む機能を有する膜タンパク(例えば、ミトコンドリアではDHAを取り込む働きのあるGLUT-1が知られている)をもつ細胞小器官に生成しているものと推測される。本結果は、長寿命ラジカルが関わるバイスタンダー効果の突然変異誘発機構を探る上でも重要な結果である。
著者
山田 美智子 笠置 文善 三森 康世 宮地 隆史 大下 智彦 佐々木 英夫
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.267, 2008 (Released:2008-10-15)

背景と目的:胎児期に被爆した被爆者では小頭症や知的障害等の神経系への影響が認められる。今回、広島成人健康調査集団の被爆時年齢13歳以上の原爆被爆者とその対照において、原爆被爆が認知機能や認知症の発症に影響したか否かについて調査した。 方法:対象者は1992年の調査開始時に年齢60歳以上で認知症を認めない2286人である。認知機能は認知機能スクリーニング検査(CASI)を用いて評価した。認知症の診断は認知機能スクリーニング検査と神経内科医による神経学的検査の2段階法を用い、人年法により線量階級別の粗発症率を求めた。原爆被曝の認知症発症への影響の評価には他のリスク要因を考慮してポワソン回帰分析を用いた。放射線治療による被曝情報は病院調査と問診調査から得られた。 結果:認知機能は加齢と共に低下し、低学歴で低かったが、被爆時年齢13歳以上の原爆被爆者では認知機能に被爆の影響は認められなかった。約6年の追跡期間中に206人が新規に認知症を発症した。60歳以上の1000人年あたりの粗認知症発症率は15.3(男性12.0、女性16.6)であった。被爆線量別の1000人年あたりの発症率は被爆線量5mGy以下、5-499mGy,500mGy以上で各々16.3、17.0、15.2であった。いずれの被爆線量群でもアルツハイマー病が優位な認知症のタイプであった。ポワソン回帰分析の結果、全認知症ならびにタイプ別認知症において、他のリスク要因を調整後に被爆の影響は認められなかった。対象者の内、68人がこの調査以前に放射線治療を受けていたが、認知症を発症したのは2人にすぎなかった。 結論:原爆被爆者の縦断的調査において認知機能ならびに認知症発症と放射線被曝の関連は認められなかった。
著者
立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.70, 2010 (Released:2010-12-01)

放射線による生物学的影響を惹起する主要なDNA損傷はDNA二本鎖切断である。従来の放射線生物学的研究は、ガンマ線やX線によるDNA損傷の生成やその修復過程の研究が主であった。これらの研究により、DNA二本鎖切断の感知及び修復に関与する多数のタンパク質の挙動などの検討が詳細に行われ、大きなネットワークを形成するDNA損傷修復過程が明らかにされてきている。しかし、ベータ線によるDNA損傷の生成やその修復については殆ど明らかでない。ベータ線はガンマ線やX線とは飛跡や電離密度が大きく異なるため、DNAなどの生体高分子に生じる損傷の種類や分布にも相違があると考えられる。このような分子レベルでの損傷の違いは、例えばDNA修復タンパク質の挙動に変化をもたらすなど、DNA損傷修復過程にも何らかの相違を生じることが考えられ、それは引いては細胞や個体に対する生物作用にも影響を及ぼすものである。従って、トリチウムベータ線の生物作用を分子および細胞レベルで明らかにすることは極めて重要である。従来のトリチウムによる生物影響研究は、現象論に偏っていたきらいがあるが、近年の分子生物学的知見の蓄積により、ベータ線の生物影響について分子生物学的および細胞生物学的研究の推進が可能になってきた。本発表では、まず、これまでのトリチウム生物影響研究の概要を簡単に振り返り、現状を紹介する。併せて、現在我々が行っているトリチウムチミジンによる放射線適応応答誘導に関する結果を報告したい。
著者
田内 広 井上 昌尚 大原 麻希 須坂 壮 松本 英悟 小松 賢志 立花 章
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.194, 2008 (Released:2008-10-15)

低線量率・低線量被曝による生物学的影響は、実験的裏付けが少ないために、放射線防護では高線量被曝データの直接的外挿から推定されているのが現状である。また、高LET放射線による体細胞突然変異では逆線量率効果といった特異な現象も報告されており、低線量率放射線被曝の生物影響解明は、科学的根拠に基づく放射線リスク評価のための重要課題でもある。我々は、トリチウムβ線による生物影響が低線量・低線量率でどのようになるのかを実験的に解明するために、体細胞突然変異の高感度検出系を開発し、低線量率のトリチウムβ線照射によるHprt欠損突然変異誘発を解析している。この突然変異高感度検出系は、Hprt遺伝子を欠失したハムスター細胞に正常ヒトX染色体を導入した細胞を用いており、従来の50~100倍の頻度で突然変異が誘発され、0.2GyのX線でも明らかな突然変異頻度上昇を検出できる。本研究ではトリチウム水(HTO)を培養液に添加し、線量率0.13~2.3cGy/hの範囲で0.3Gyの照射を行って突然変異誘発効果を解析した。その結果、中性子で逆線量率効果が認められる0.2cGy/h以下の線量率においても、誘発突然変異頻度の明らかな増加は認められなかったので、トリチウムβ線では、少なくとも0.13cGy/hまでは逆線量率効果は生じないことが示唆された。現在、さらに低い線量・線量率での実験を行っており、その結果を合わせて発表する予定である。また、得られた変異体クローンのヒトX染色体に起こった欠失範囲の解析により、低線量・低線量率では突然変異スペクトルが自然発生のスペクトルに近づくことが示唆された。
著者
石井 直明 安田 佳代
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第54回大会
巻号頁・発行日
pp.62, 2011 (Released:2011-12-20)

線虫は以下のように放射線に対して高い耐性を示す。 1. 胚発生期において、放射線耐性は最初の細胞増殖期で低下した。線虫はモザイク卵であるため、分裂に伴いターゲットサイズが大きくなってきたことが原因と考えられる。その後、後半の分化期に入ると前半に比べて40倍も耐性になった。この時期には多くの細胞が分裂を停止したことが原因と考えられる。孵化後の幼虫期、及び成虫期ではさらに放射線耐性になった。 2.線虫の一種、C. elegansは幼虫期に餌が不足したり、虫の密度が高くなると正常発生から外れて耐性幼虫になる。餌を与えた時点で正常発生に戻る。耐性幼虫から正常発生に戻すまでの期間に依存せず、正常発生後の寿命が一定なことから耐性幼虫期を「non-aging stage」と呼ぶ。耐性幼虫期に電離放射線を照射し、正常発生後の寿命に変化があるかを調べたところ、寿命延長効果が認められた。その効果は耐性幼虫になってから照射までの期間や照射から正常発生までの期間で大きく変化した。 3.電離放射線照射前の酸素暴露が強いホルミシス効果を示した。この効果は電離放射線と紫外線に高い感受性を示す突然変異体、rad-1 とrad-2で消失した。 線虫は電離放射線により生じたDNAの1本鎖切断を早期に高い効率で修復することから、線虫は放射線に対して強い防御機構を備えていることが示唆された。
著者
中山 亜紀 篠本 祐介 佐々木 克典 米田 稔 森澤 眞輔
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.181, 2010 (Released:2010-12-01)

化学物質のリスク評価方法は現在大きな転換を求められている。 放射線のリスク評価が広島・長崎の原爆生存者調査という膨大なヒトのデータに基づいているのに対し、化学物質のリスク評価の多くは動物実験に頼ってきた。しかし、コスト・時間・動物倫理の面から、in vitro毒性試験に基づいたリスク評価の開発が望まれている。 そこで我々は、「放射線等価係数」という概念によるリスク評価方法を提案したい。 この方法ではin vitro毒性評価試験系により対象物質の毒性を等価な放射線量に換算した放射線等価係数を決定し、さらに対象物質のターゲット臓器における曝露量と放射線の発がん確率からその臓器における発がんリスクを推定するものである。 DDT及びX線について行ったin vitroトランスフォーメーションアッセイから肝臓がんリスクを評価したところ、Slope Factor(1mg/ kg 体重/日の用量で生涯にわたり経口曝露した時の発がんリスク)として0.143~0.152が得られ,US.EPAの呈示するSlope Factorと比較して良好な値であり、「放射線等価係数」によるリスク評価方法が妥当である可能性を確認した。
著者
秋山 秋梅 細木 彩夏 松井 亜子 橋口 一成 野村 崇治 近藤 隆
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.65, 2008 (Released:2008-10-15)

電離放射線の生体分子に対する作用は、主に、周辺の水分子の放射線分解によって生成する活性酸素(O2-、H2O2、•OH)を介した反応によって起こる。この場合、それらの活性酸素がDNA、タンパク質、脂質などと反応し、それらを非特異的に酸化する。したがって、放射線照射によって生じる活性酸素を迅速かつ効率よく消去できれば、放射線による細胞の障害は軽減できると考えられる。本研究の目的は、活性酸素を消去する酵素、superoxide dismutase(SOD)および細胞の酸化還元状態を維持する酵素、thioredoxinやglutaredoxinの細胞内での高発現によって細胞の放射線感受性を軽減(防護)すること、およびその機構を明らかにすることである。まず、ヒトのSOD遺伝子をcloningして、HeLa S3細胞にtransfectionし、安定した高発現細胞株を作成した。これらの細胞を用いて、放射線に対する細胞の感受性と応答について検討した。細胞質に存在するSOD1(Cu/Zn-SOD)の高発現細胞株は HeLa S3 と同程度の感受性を示したが、mitochondriaに局在するSOD2(Mn-SOD)の高発現株は HeLa S3 細胞より放射線抵抗性を示した。SOD1、SOD2 の高発現によって放射線照射24 時間後の細胞内の酸化ストレスレベルは HeLa S3 より抑制された。SOD2による放射線防護の機構は、生成した活性酸素の効率的な消去による細胞内の酸化防御と細胞応答の制御によるものの二つが考えられる。事実、SOD2高発現株では、放射線apoptosisの抑制や特定の遺伝子発現の誘導など興味深い現象が観察された。さらに、SOD2の高発現によって、核DNAにも損傷の減少が起こり、放射線に対する細胞の応答の複雑で巧妙なネットワークが存在することが分かった。
著者
小林 憲正
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.21, 2007 (Released:2007-10-20)

生命の誕生に必要な有機物の生成の場としては原始惑星大気や星間環境が考えられる。特に,星間で生成した有機物は隕石や彗星により原始地球に届けられたと考えられ,その役割が注目されている。われわれは原始惑星や星間を模した環境下で,高エネルギー粒子線などの放射線による有機物の生成や変成について実験を行っている。隕石や彗星中にみられる有機物は,元来,分子雲中の星間塵中で生成したと考えられる。そのシミュレーションには,紫外線照射が使われることが多いが,宇宙線の効果が重要であると考えられる。そこで,(1)一酸化炭素・アンモニア・水(気相・固相)への陽子線照射,(2)メタノール・アンモニア・水(液相・固相)への重粒子線照射を行った。いずれの実験においても分子量数千の複雑な有機物が生成するが,その酸加水分解により種々のアミノ酸等を生じることがわかった。これは,宇宙線により高分子状の複雑な構造を有するアミノ酸前駆体がすでに生成していることが強く示唆される。この複雑有機物態のアミノ酸は,遊離アミノ酸と比べて放射線や熱に対して安定である。これらは,星間で紫外線や熱などによる変成を受けたと考えられる。模擬実験で生成した有機物の変成実験を行い,隕石中にみられる有機物との相関を調べる実験を計画中である。星間での有機物の生成や変成を調べるためには,実際の宇宙環境下での実験が有効と考えられる。現在,宇宙ステーション曝露部を用いた宇宙線や極端紫外光を用いた有機物の生成・変成実験や,惑星間塵の捕捉実験を計画中である。
著者
菓子野 元郎 漆原 あゆみ 児玉 靖司 小林 純也 劉 勇 鈴木 実 増永 慎一郎 木梨 友子 渡邉 正己 小野 公二
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.209, 2008 (Released:2008-10-15)

我々は、DMSOによる放射線防護効果が、放射線による間接作用の抑制ではなく、DNA-PK依存的なDNA二重鎖切断修復の活性化によりもたらされているという仮説の検証を行った。細胞は、マウス由来細胞のCB09、及びそのDNA-PKcsを欠損するSD01を用いた。DMSOの濃度は、1時間処理しても細胞毒性がなく、放射線防護効果が大きく現れる2% (256 mM)とした。DMSO処理のタイミングは、照射前から1時間とし、照射直後にDMSOを除いた。放射線防護効果については、コロニー形成法による生存率試験及び微小核試験法を用いて調べた。DMSO処理細胞により放射線防護効果が現れることが、CB09細胞の生存率試験により分かった。微小核試験においても、同処理により、微小核保持細胞頻度が有意に抑制された。これに対して、DNA-PKcs欠損細胞(SD01)では、同処理による放射線防護効果がほとんど見られなかった。DNA-PKの有無がDMSOによる防護効果の機構に関わる可能性が考えられるので、照射15分後から2時間後までDNA二重鎖切断修復の効率を解析した。その結果、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカスの数は、照射15分後ではDMSO処理により約10%減っていた。これに対し、照射2時間後ではDMSO処理により約30%のフォーカス数の減少が見られ、照射15分後よりも2時間後に残存するDNA二重鎖切断の方が、DMSO処理により大きく軽減されることが分かった。これらの結果は、放射線照射により誘発されたDNA二重鎖切断生成がDMSOにより抑制されるわけではなく、照射直後からスタートするDNA-PKcsに依存したDNA二重鎖切断修復機構がDMSOの照射前処理により効率よく行われている可能性を示唆している。
著者
菓子野 元郎 鈴木 実 木梨 友子 増永 慎一郎 小野 公二 渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.231, 2007 (Released:2007-10-20)

放射線照射された細胞では、活性酸素種などの短寿命ラジカルが大量に生成し、それらがDNA損傷をはじめとする様々な障害を誘発すると考えられている。DMSOは、照射に伴い生成するヒドロキシラジカルを軽減させ、放射線防護効果を示すと理解されているが、DMSOの作用は多岐に渡るので、DMSO処理細胞が如何にして放射線防護作用を示すのかは、依然、不明な点が多く残されている。そこで我々は、細胞毒性と酸化ストレス抑制作用をほとんど示さない0.5% DMSOで処理された細胞の放射線防護効果について検討を行った。その結果、0.5%DMSOで処理されたCHO細胞は、放射線により誘発する微小核生成が抑制され、生存率の上昇が見られた。しかし、興味深いことに、Ku80を欠損し非相同末端結合能に異常を持ち放射線高感受性を示すxrs5細胞では、同様のDMSO処理により放射線防護効果が見られなかった。DNA-PKcs欠損マウス(Scid)細胞でも、DMSO処理による防護効果は見られなかった。このことは、DMSOによる放射線防護効果が、DNA二重鎖切断修復機構と関連していることを示唆している。さらに、DNA二重鎖切断部位を反映すると考えられる53BP1のフォーカス形成を調べたところ、照射15分後における53BP1フォーカス数は、0.5%DMSO処理細胞と未処理細胞で変わらなかった。一方、照射1時間後から2時間後にかけて、DSBの修復に伴う53BP1フォーカスの消失が見られたが、0.5%DMSO処理細胞の方が未処理細胞に比べ、その消失速度が早いことがわかった。これらの結果は、DMSOによる放射線防護効果が細胞内活性酸素種の軽減効果に起因するものではなく、非相同末端結合修復をはじめとするDNA二重鎖切断修復機能の活性化に起因している可能性を示唆する。
著者
馬田 敏幸 法村 俊之
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第51回大会
巻号頁・発行日
pp.202, 2008 (Released:2008-10-15)

p53野生型マウスにトリチウム水一回投与によるβ線照射、あるいはセシウム-137γ線をシミュレーション照射法(トリチウムの実効半減期に従って線量率を連続的に減少させながら照射)により3Gyの 全身照射を行ったとき、T細胞のTCR遺伝子の突然変異誘発率は、γ線では上昇しなかったがトリチウムβ線では有意に上昇した。この差異の原因がp53の活性量の違いにあるのかを明らかにするために、次の実験を行った。8週齢のC57BL/6Nマウスの腹腔内に、270MBqのトリチウム水を注射し19日間飼育した。この間にマウスは低線量率で3Gyの被ばくを受けることになる。γ線はシミュレーション照射法で7日間照射し、その後12日間飼育した。飼育最終日にマウスに3Gy(0.86 Gy/min)照射し、4時間後に脾臓を摘出しT細胞分離用とアポトーシス解析のためのタネル法の試料とした。ウェスタンブロット法によりp53の発現量とリン酸化p53の存在量を比較した。p53の活性量とアポトーシス活性を現在解析中であり、突然変異の除去機構について考察を行う。
著者
大津山 彰 岡崎 龍史 法村 俊之
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.35, 2007 (Released:2007-10-20)

p53遺伝子野生マウスでは、p53依存ならびに非依存性修復能により損傷DNAの修復が行われ、修復不能損傷はp53依存アポトーシスによって細胞ごと排除され、放射線催奇形の実験では低線量放射線(LDR)域でほぼ完全に奇形発生が抑えられる。一方p53遺伝子KOマウスではp53非依存性の修復しか働かず、LDR照射であっても奇形発生は完全に押さえられない。このp53による生体防御機構の一端は放射線での奇形発生のみならず、発がんにも関与すると考えられる。もし野生マウスで、LDR照射でがんが発生せず、KOマウスで高率に生じるとすれば、放射線発がんで常に問題となるしきい値存在の有無がこの機構によって解釈できる。p53遺伝子が野生、ヘテロ、KOマウスの背部皮膚を円盤型β線線源(15Gy/min.)で週3回反復照射をマウスの生涯に渡り行った。実験群は各マウス1 回当り照射線量2.5Gy群と5.0Gy群とした。発生した腫瘍は組織学検査ならびに、DNA抽出後p53遺伝子についてSSCPによる突然変異とLOHの解析を行った。KOマウスでは生存期間内に腫瘍の発生はなかった。ヘテロマウスでは2.5Gy群で8/21、5.0Gy群で25/45の腫瘍発生がみられ、野生マウスでは2.5Gy群で8/22、5.0Gy群で6/33の腫瘍発生がみられ発がん開始時期もヘテロマウスより約150日遅れた。ヘテロマウスの腫瘍のうち14/23例でLOHがみられたが、突然変異はなかった。野生マウスでは7/9例に突然変異がみられ、LOHは3/9例にみられた。p53遺伝子の存在状態は明らかに放射線による発がん率と発生時期に影響し、放射線で生じる変異の型がp53遺伝子の存在状態によって異なることが理由であると考えられた。
著者
槌田 謙 久木原 博 柳原 啓見 小松 賢志
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.158, 2006 (Released:2007-03-13)

DNA鎖間架橋 (Interstrand cross-links : ICLs)はDNA二本鎖がDNA架橋剤によって架橋された構造のDNA損傷であり,転写,複製,組み換えを阻害する。我々は真核生物のICL修復機構の解明を目的にICLの高感度定量法(Psoralen-PEO-biotin excision assay: PPBE法)を開発し,様々なDNA修復遺伝子欠損細胞でのICL除去速度を測定した。正常細胞は細胞当たり2500個のICLを24, 48時間後でそれぞれ77, 93%除去した。この除去反応はDNA複製の阻害によって低下することからICL修復はDNA複製時に行われることが示唆された。DNA架橋剤感受性を示すファンコニ貧血細胞であるFA-G,-A相補性群細胞では正常細胞と比べICL除去速度に有意な低下が見られた。一方,FA-D2相補性群細胞ではICL除去速度は正常細胞とほぼ同じであったことからFA-D2タンパク質はICL除去には関与しないことが示された。相同組換え(HR)関連遺伝子欠損細胞はDNA架橋剤感受性を示すがICL除去速度は正常であったことからHRはICL除去後の修復に関わることが示唆された。さらに損傷乗り越えDNA合成(TLS)に関与するREV3の欠損細胞ではICL除去速度が低下することからTLSがICL除去に関与することが示唆された。
著者
高畠 貴志 柿沼 志津子 廣内 篤久 中村 正子 藤川 勝義 西村 まゆみ 小木曽 洋一 島田 義也 田中 公夫
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.153, 2007 (Released:2007-10-20)

放射線誘発胸腺リンパ腫は、放射線発がんメカニズムの解析だけでなく、発がん感受性に影響する遺伝的要因についての研究にも有用なモデル実験系である。我々は、放射線誘発胸腺リンパ腫を誘発しやすいC57BL/6系統、誘発しにくいC3H系統、およびこれらを親とし比較的誘発しやすいC3B6F1系統とB6C3F1系統で放射線誘発した胸腺リンパ腫を対象として、DNAコピー数の異常をゲノム網羅的にアレイCGH法で解析した。胸腺リンパ腫発症に関与することが知られているIkarosやBcl11bなどの遺伝子座での変異や15番染色体のトリソミー以外に、5番染色体、10番染色体、16番染色体での異常が系統依存的に高頻度であること、および、14番染色体のトリソミーが系統によらず高頻度であることを見出した。さらに、T細胞受容体ベーター遺伝子領域の2つの対立遺伝子で共に遺伝子再構成が生じている頻度は、C3H系統でのリンパ腫より、C57BL/6系統でのリンパ腫で高頻度に検出された。このことから、C57BL/6系統では異常なV(D)J組換えを起こしやすいためにリンパ腫を誘発しやすい、という可能性が示唆された。また、C3B6F1系統やB6C3F1系統でのリンパ腫における、これら各種異常の頻度や染色体上での異常頻発領域の分布は、C57BL/6系統で誘発されたリンパ腫についての結果と似ていた。さらに、F1系統での腫瘍についてのヘテロ接合性消失の解析と合わせると、IkarosやBcl11b遺伝子座でのヘテロ接合性消失は主として欠失型異常により生じ、他方Cdkn2やPten遺伝子座では主として片親性ダイソミーにより生じると示唆された。これらの結果は、放射線によりリンパ腫が誘発される際に変異が蓄積される機構や、放射線により胸腺リンパ腫を誘発しやすい系統と誘発し難い系統が存在することの原因を知る上で重要な知見となる。本研究は青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
著者
甘崎 佳子 柿沼 志津子 古渡 礼恵 山内 一己 西村 まゆみ 今岡 達彦 有吉 健太郎 渡邊 正己 島田 義也
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.167, 2007 (Released:2007-10-20)

【目的】放射線照射によって生じる長寿命ラジカルは、培養細胞の系において遅延型の点突然変異を誘発し細胞をがん化させるが、放射線照射後にビタミンC(VC)を添加すると突然変異頻度が低下し、がん化が抑制されることが報告されている。しかし、放射線発がんにおける長寿命ラジカルの関与について、動物を用いて検証した報告は少ない。そこで本研究では、マウスの放射線誘発胸腺リンパ腫(TL)の系を用いて、放射線照射後にVCを投与した場合のTL発生率とがん関連遺伝子の変異パターンを解析し、放射線誘発TL発生における長寿命ラジカルの関与について明らかにすることを目的とした。 【材料と方法】4週齢B6C3F1マウス(雌)に、X線1.4 Gyを1週間間隔で4回照射しTLを誘発した。VCは生体内半減期の長い誘導体Sodium-L-ascorbyl-2 phosphate(共立薬科大学小林静子先生より供与)を100mg/kg腹空投与した。実験群は、1) X線単独(X線)、2) X線照射直後に毎回VC投与(X+VC)、3) X線照射直後に毎回VCを投与しさらに継続して毎週1回(3ヶ月間)VC投与(X+VC継続)の3群を設定し、各群における照射後生存日数とTLの発生率を調べた。また、放射線誘発TLにおいて変異パターンが明らかとなっているがん抑制遺伝子Ikarosの遺伝子発現、点突然変異およびタンパクの発現を解析した。 【結果】照射後の生存日数は、X線群と比較してX+ VC群ではやや短くなる傾向を示したが、X+VC継続群では長くなった。また生後400日におけるTLの発生率もX+VC継続群で若干低下した。さらに、Ikarosの変異解析の結果、X+VC継続群ではIkaros遺伝子の点突然変異が認められなかった。以上の結果から、マウスの放射線誘発TL発生に長寿命ラジカルが関与している可能性があることが示唆された。
著者
渡邉 正己
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第49回大会
巻号頁・発行日
pp.65, 2006 (Released:2007-03-13)

放射線による細胞がん化の第一標的は、DNAであると信じられてきた。しかし、そのことを直接的に証明する結果はない。我々は、これまでシリアンハムスター(SHE)細胞を用いた細胞がん化実験系を用いて放射線による細胞がん化誘導機構を追跡し、グレイあたりの細胞がん化頻度が平均的な体細胞突然変異頻度の500~1,000倍高いことを報告してきた。このことは、細胞がん化が複数の突然変異の集積で生ずるという“多段階突然変異説”と矛盾するものである。 我々は、この矛盾を解決するためにSHE細胞を用いて細胞がん化に関連する細胞内標的を探索したが、その結果、高密度培養や放射線被ばくによって細胞内酸化度が昂進し、それに伴ってセントロメアあるいはセントロゾームの構造異常を生じることがわかった。それらの細胞集団では、染色体構造異常は起こらないが染色体異数化が高頻度に見られる。 これらの結果は、放射線による細胞がん化の主たる標的はDNAではなく、セントロメアあるいはセントロゾームなどの染色体安定性維持機構を構成するタンパク質である可能性を示唆している。
著者
古澤 之裕 藤原 美定 趙 慶利 田渕 圭章 高橋 昭久 大西 武雄 近藤 隆
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第53回大会
巻号頁・発行日
pp.118, 2010 (Released:2010-12-01)

目的:超音波は現代医療において診断のみでなく,がん治療にも用いられている.一定強度以上の超音波を細胞に照射することで,キャビテーションによる細胞死を引き起こすことが観察されてきた. 細胞死誘発の作用機所の一つとしてDNA損傷が考えられており,これまでチミン塩基損傷やDNAの一本鎖切断の生成が認められ,超音波照射後に発生するフリーラジカル,残存する過酸化水素の関与が報告されている.放射線や抗がん剤は,DNAを標的として細胞死を引き起こすことが知られており,損傷の種類,損傷誘発・修復機構等多数の報告がなされているが,超音波に関する知見は非常に限定的で依然不明な点が多い.本研究では,超音波により誘発されるDNA損傷と修復について検討を行った. 方法:ヒトリンパ腫細胞株に、周波数1 MHz、PRF 100 Hz、DF 10%の条件で超音波照射した。陽性対照としてX線照射した細胞を用いた.DNA損傷を中性コメット法,gammaH2AX特異的抗体を用いて検討した.また修復タンパクの核局在を免疫染色法にて検討した.ヒドロキシラジカルの産生をスピン捕捉法にて、細胞内活性酸素をフローサイトメトリーにて検討した。DNA損傷応答経路の阻害剤としてKu55933、Nu7026を適宜用いた. 結果:超音波が放射線と同様、照射強度・時間依存的にgammaH2AXを誘導し,コメットアッセイにおいてもDNA損傷が検出された。修復タンパクの核局在が同時に観察され,照射後時間経過による損傷の修復が確認された.キャビテーションを抑制すると超音波によるgammaH2AXは観察されず、細胞死も有意に抑制された。一方で細胞内外のROSの産生を抑制しても,gammaH2AXの有意な抑制は観察されなかった。超音波によるgammaH2AXはKu55933単独処理のみならず,Nu7026の単独処理によっても抑制された. 結論:超音波がキャビテーション作用によりDNA二本鎖切断を引き起こすことが明らかとなった.また,超音波によってもDNA損傷の修復シグナルの活性化が起こり,DNA-PKが重要な役割を担っていることが予想される.
著者
井尻 憲一
出版者
一般社団法人 日本放射線影響学会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集 日本放射線影響学会第50回大会
巻号頁・発行日
pp.20, 2007 (Released:2007-10-20)

多くの遺伝子の発現が微小重力(無重力)で変化することは宇宙実験で示されている。転写の上昇が認められる遺伝子があると思えば、抑制される遺伝子もある。このような遺伝子発現の変化は、細胞骨格の状態変化と結びつけて説明される。これまでに報告されたデータの紹介とともに、宇宙放射線によるDNA損傷がどうなるかについても議論したい。