著者
設樂 律司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.4, 2004

<b>1.はじめに</b><br>近年、中心商店街では停滞、衰退化が問題となり、様々な活性化策が講じられている。従来の中心商店街の活性化では、ハードが重視される傾向があったが、次第にソフトが重視されるようになり、地域イベントなどが広く行われるようになった。本研究は商店街の活性化を目的とする地域イベントを多面的な視点から評価し、また、地域イベントが効果を挙げるプロセスを明らかにする。<br>本研究は江戸期以来、西多摩地域の中心都市として栄えたが、現在は中心地機能が衰退している東京都青梅市のJR青梅駅周辺の商店街を対象とし、そこで行われている地域イベントを主とした商店街の活性化策を取り上げた。既存の統計や文献資料、現地調査結果を用いて商店街の特徴を把握した後、地域イベントの運営主体と商店会および市役所への聞き取り調査および現地での地域イベントと景観の観察の結果から、地域イベントとその主体および地域がどのように関わるのかを時間的に把握し、それら3者の関係の中から内発的な地域イベントによる商店街の活性化の構造を明らかにした。<br><br><b>2.青梅宿アートフェスティバルによる街おこし</b><br>商店街が衰退する中、青梅駅周辺の商店街では、各商店会が単独で、あるいは共同で独自の地域イベントなどの活性化策を講じてきたが、効果は上がらなかった。そのような中、商店街の経済的な活性化を目的として1991年に始められた青梅宿アートフェスティバルは商店街を観光地化させる大きな契機を生み出した。青梅宿アートフェスティバルは青梅宿アートフェスティバル実行委員会と各商店会によって運営され、毎年設定されるテーマに沿って市民参加的なアートが街全体を舞台にして行われている。テーマは1993年から大正・昭和をコンセプトとし、1998年頃からノスタルジィーをキーワードとするようになった。青梅宿アートフェスティバルが継続されていく中で、様々な地域資源が掘り起こされ、新たな地域資源が生み出されるなかで、街おこしが始まっていった。街おこしが始まっていくとマスコミによって青梅にいくつかの地域イメージが与えられた。それらの地域イメージに合わせて、掘り起こされた地域資源を活用した街づくりが展開された。それらの結果、青梅は映画の街、怪傑黒頭巾生誕の地、猫の街、雪女縁の地、昭和レトロな街として街づくりがされた。<br><br><b>3.青梅宿アートフェスティバルの効果</b><br>青梅宿アートフェスティバルの経済効果は当日も期間外もあまりない。しかし、青梅宿アートフェスティバルを通して形成された人的ネットワークが多様な効果をもたらした。青梅宿アートフェスティバル以前は、各商店街で閉じていたネットワークが、青梅宿アートフェスティバルの継続とともに、青梅宿アートフェスティバル実行委員会のネットワークと接続し、開かれた2段階のネットワークを形成するようになった。この結果、青梅宿アートフェスティバル実行委員会内のコミュニティが強化された。このネットワークは青梅駅周辺の商店街に共同の意識を持たせ、各商店会単独ではできないような事を実現した。開かれたネットワークは街おこしのきっかけとなった地域資源の掘り起こしを可能にした。開かれたネットワークはさらなる街おこしを可能にした。また、開かれたネットワークを通して、地域外交流が生まれた。ネットワークがさらに広がったところでは、マスコミによって地域イメージが創成された。