著者
諸星 静次郎 大隈 琢巳
出版者
The Japanese Society of Sericultural Science
雑誌
日本蚕糸学雑誌 (ISSN:00372455)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.375-384, 1968-10-30 (Released:2010-07-01)
参考文献数
32

RALPH (1962) は食道下神経節とアラタ体一側心体の抽出物が著しく拮抗的にゴキブリの心臓搏動に作用することを報告した。蚕のアラタ体と食道下神経節のホルモンはそれぞれ若がえりホルモン, 休眠ホルモンなどとして知られているが両者の拮抗的な働きに関しては確実な実証はなされていない。そこで蚕の両ホルモンの拮抗的機能をくわしく知るため特に心臓搏動に観点をおいてこれらのホルモンの作用を調査した。これに関連させ脊椎動物ホルモンであるアドレナリンとインシュリンの影響についても調査した。無脊椎動物に対してアドレナリンとインシュリンの働きはほとんど知られていない. 蚕の逆脈の研究で横山 (1932) は幼虫及び蛾で脊脈管の頻度と方向にアドレナリンが影響することを報告している程度である. アラタ体及び食道下神経節は Ralph の抽出方法を用い蚕の幼虫からそれらの器官を取出したものから抽出したものを注射して実験を行なった。アドレナリン及びインシュリンは市販のものを使用し, 濃度を調製して実験を行なった。蚕の幼虫の食道下神経節の抽出物は蚕の幼虫の心臓搏動数を減じ, アラタ体抽出物は反対に増加させる傾向があって両者は拮抗的な働きをもっている。心臓搏動数の変化は抽出物中の筋肉収縮を刺激する神経ホルモンの働きによるものらしい。一方高等生物で拮抗的作用をもつといわれるアドレナリンとインシュリンについてみるとアドレナリンはその量を多くする場合には明らかに蚕幼虫の心臓搏動数を増加させるがインシュリンは殆んど影響がない。このような実験結果からアドレナリンとアラタ体の抽出物および食道下神経節の抽出物は蚕の筋収縮に影響することが明らかにされた。