著者
諸橋 勇
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会宮城県理学療法士会
雑誌
理学療法の歩み (ISSN:09172688)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.3-10, 2020 (Released:2020-05-02)
参考文献数
20

理学療法診療ガイドライン第1版が出版され,理学療法士の間で利用する人が増えてきている一方で,エビデンスに基づいたEBPTはなかなか地に足がついて進んできていない。その原因を,理学療法士の資質や制度を概観して検討すると,その原因の代表的なものの一つに療法士と患者間のコミュニケーションの在り方があると認識できる。患者への説明や患者の診療の選択の意思決定ツールとしてガイドラインの利用が望まれる。また,理学療法の思考過程の中で経験則や思い込みなどだけではなく,理学療法の臨床判断の特殊性も加味しながら,テクニカルスタンダード,ガイドライン,エビデンス,個別性を考えEBPTの5つのステップに沿って思考過程を展開し,検証することが重要であることを強調したい。最後にEBPTを知識として持っているのではなく,まずは患者さんとしっかりコミュニケーションをとり,さらにEBPTを実施することがガイドライン活用の第一歩と考える。
著者
諸橋 勇
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.835-843, 2015-09-15

はじめに 近年,理学療法士が行っている研究はまだ課題はあるにしても,統計学的な手法を用いて質,量ともに以前より向上していることは誰もが認めるところである.国内外の理学療法専門誌には症例報告の投稿欄も設けられ,そしてケーススタディの特集が企画され,その重要性は認められているといえる. しかし,学術大会や研究論文のなかで症例報告,症例研究の割合はまだ少なく,あまり積極的に行われているとはいい難い.例えば臨床のなかで困難な症例や稀少な症例を担当すると,場合によってはそれらの症例と類似した過去の症例報告の文献を検索することがあるが,検索目的に合致した症例がみつからないことが少なくない. また,患者の理学療法プログラム作成時には基本的に「患者の個別性」を重視し,その患者に合った個別的プログラムを作成することが理想とされている.しかし,理学療法士が言葉で「重要視している」といっているほど,現場では個別性を考慮したアプローチが行われてきているだろうか. また,「患者の経過は順調です」という言葉をよく聞くが,この順調とは何と比較して,どのような根拠で判断しているのだろうか. 本稿では,ケースレポート,そしてシングルケースデザインを中心に臨床の理学療法の現状も踏まえて,症例研究のあり方を概説し,症例研究に取り組むにあたり,はじめの一歩が踏み出せるような具体的な方法を呈示したい.