著者
谷口 晴香
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

本研究では落葉樹林帯に属し冬季に積雪がある青森県下北半島(以下、下北)と照葉樹林帯に属す鹿児島県屋久島低地(以下、屋久島)に生息するニホンザルを比較し、環境に呼応した離乳の様式が存在するかを明らかにすることを目的とした。採用2年目は、以下①②③を行った。①夏季に下北において個体数調査およびニホンザルの食物の硬度計測を行った。②下北と屋久島において、食物の物理的性質(大きさ、操作数、高さ、かたさ)が母子の食物利用の差に与える影響を、一般化線形混合モデルを用い総合的に分析した。その結果、母親と比較しアカンポウは、1口で食べられる食物、抽作を伴わない食物、低い位置にある食物に採食時間を費やしていた。両地城ともに2000J/㎡以上. のかたさの品目に関しては、アカンボウは母親と比較しあまり採食しない傾向にあった。環境条件が異なっていても身体能力が未熟なアカンボウは、共通し利用しやすい食物に採食時間を費やす傾向にあった。③母子の別れに関して分析を行った。下北では採食場面での母子の別れが多く観察され、アカンボウの母離れのきっかけとして、「食物」が大きく関与していた。一方で、屋久島では、採食が母子の別れのきっかけになることもあったが、他のアカンボウとの合流をきっかけに母親と別れるという社会的な要因も影響していた。屋久島は、冬季を通し、アカンボウ同士の交流が多くみられ、また採食場面においても母親より食物利用が類似している他のアカンボウと共食することが多かった。この違いは、おそらく屋久島のアカンボウが下北より栄養や体温維持の面で母親に依存する必要が少ないためと考えられる。生息環境により離乳の様式は異なっていた。分析②と③の一部を、ニホンザル研究セミナー、および第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会において発表を行った。また、②の内容の一部を、国際学術雑誌に現在投稿中である。