著者
山縣 健佑 積田 正和 谷口 秀和 小川 恭男
出版者
Showa University Dental Society
雑誌
昭和歯学会雑誌 (ISSN:0285922X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.47-56, 1988
被引用文献数
10

粉末法パラトグラフィーを応用して, 歯の舌側面および咬合面を含む口蓋部への発音時の舌の接触範囲を観察する方法を開発した.研究方法 : 上顎模型の歯列と口蓋部にビニールシートを圧接成型して記録板を作製し, アルジネート粉末を塗布し, 口腔内に装着して発音させた.被験者は, 有歯顎者10名 (男9名, 女1名) で, パラトグラムの採得と発音誤聴率検査を行った.被験音は, 「サ, シ, ヒ, カ, キ, タ, ナ, ラ, ヤ」である.発音誤聴率検査は, この9語音が, それぞれ10回ずつ出現するようにして3語音ずつ組み合わせた検査語表によって行った.発音誤聴率検査の結果 : 記録板装着時には記録板なしよりも異常度はやや増加するが, 大部分は「ヒ」「キ」についての誤聴である.被験者1名で, 「キ」の誤聴率が30%であったほかは, 4%以下の誤聴で, 異常の程度は小さい.パラトグラムの計測結果 : 歯列に対する舌の接触部位は被験音によって異なり, 口蓋部への舌の接触範囲が標準的な場合には, 歯列との接触範囲も限られた部位で一定のパターンとなる.その範囲は, 臼歯では舌側咬頭頂をややこえる部分まで, 前歯部では基底結節から歯冠のほぼ中央まで接するのが典型的なパターンである.ただし, パラトグラムが非典型的形態と思われる被験者でも, 発音誤聴率検査では誤聴が認められない場合も多い.