著者
谷口 郁雄 田中 英和
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1988

聴覚中枢損傷後の機能的な回復に関する基礎的な情報を得ることを目的として、脳の中でも再生した神経線維が再びシナップスを形成するかどうか、もしシナップスが再形成された場合には、その機能的性質は正常なシナップスと比べてどのような違いがあるのかという点について、マウスの下丘交連を矢状断し、その後の神経線維の再生の現象を利用して形態学的および生理学的な方法により検討した。その結果、次のことが明らかとなった。(1)金属およびガラス電極を用いた微小電極法による実験から、切断された交連線維は再生し、タ-ゲットである下丘で再びシナップスを形成することが確認され、再形成されたシナップスの機能的性質については、音刺激に対する応答を抑制するものが主で、加算的なものも少数認められた。(2)抑制性シナップスが認められることは再生した交連線維が下丘に対して抑制性の介在ニュ-ロンにも結合することを示している。(3)再形成されたシナップスは正常群と比べると下丘の比較的表層に分布する。(4)再生した下丘交連の神経細胞をペロキシダ-ゼでラベルすると、正常群に比べて軸索の走行はかなり乱れていた。(5)以上の結果は下丘において再形成されたニュ-ロン・ネットワ-クが多様であることを示唆する。シナップスの機能に関しては正常群と比べて大きな違いは統計学的にはないと思われるが、再生した軸索は走行が乱れるので、下丘のシステムとしての機能には微妙な変化が起こっていると考えられる。