著者
幸田 圭史 高橋 一昭 更科 広実 斉藤 典男 新井 竜夫 布村 正夫 谷山 新次 鈴木 秀 奥井 勝二 古山 信明 樋口 道雄
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科医学会雑誌 (ISSN:03869776)
巻号頁・発行日
vol.46, no.11, pp.1466-1470, 1985

非ポリポーシス性遺伝性大腸癌の一型として分類されているcancer family syndromeは, Lynch (1973)らによりその診断基準が示されたが未だ明確なものではない.今回cancer family syndromeを疑わせる異時性3重複癌の症例を経験した.症例は60歳の女性で, 40歳時にS状結腸癌,直腸癌に罹患. 57歳時に子宮内膜癌に罹患.今回(60歳)は胆嚢癌,横行結腸癌と診断され昭和59年7月開腹術を行ったが多数の腹腔内播種を認め根治術を施行し得ず閉腹した.その組織型は全て腺癌であった.また本症例の三男は20歳時に大腺癌の為死亡し,母親は胃癌の為53歳時に死亡している.本症例の大腸癌はポリポーシスの形をとっておらず,子宮癌は子宮体部に発生したものであった.これらは, Lynchらの述べているcancer family syndromeの特徴の大部分を満たしているが,広い家族歴を調査できなかった為,常染色体優性遺伝のことは証明できず確定診断にはいたらなかった.家族に対する癌の二次的予防の意味においてcancer family syndromeを診断することは意義があり,今後明確な診断基準の作成が必要と考えられた.また,診断基準の作成の為に免疫学的研究の導入が必須と思われた.