著者
谷岡 曜子
出版者
一般社団法人 芸術工学会
雑誌
芸術工学会誌 (ISSN:13423061)
巻号頁・発行日
vol.82, pp.54-61, 2021

本研究では、ストーリーマンガのコマの数に関して、技法書やインターネット上で語られる通説から4つの仮説を抽出した。仮説ⅰ.コマ数の最頻値は5~7コマ、仮説ⅱ.最初のページのコマ数は全体のコマ数平均よりも少ない、仮説ⅲ.最後のページのコマ数は全体のコマ数平均よりも少ない、仮説ⅳ.全体を通してコマ数を変動させ緩急をつける。 これらの仮説の検証のためのサンプル群は、販売数統計サイト「オリコン」より、2017年2~7月期のマンガ販売数上位20作品、計120作品のうち、4コママンガ作品と重複を除く74作品の1話目とした。 仮説ⅰ~ⅳの検証の結果、ⅰ.1ページあたりの平均コマ数は4.99となり、従来の通説よりもコマ数が少ないという結果になった。1ページあたりのコマ数は時代の影響を受けやすく、仮説より少ない結果となったのはスマートフォンやタブレットなど、コミックスよりも小さなサイズの画面で鑑賞する読者の増加によると考えられる。ⅱ.最初のページのコマ数は平均よりも少なく、3.9コマであった。従来の仮説の理由となっていた、冒頭に印象的な絵や情報を配置するために大きくコマを取ることが、コマ数が減った原因であろうと考えられる。ⅲ.最後のページのコマ数は最初のページのコマ数よりも少なく、3.2コマとなった。最後のページには余韻を残す、または次回への誘引が求められるため、その影響を受けていると考えられる。ⅳ.全体を通してコマ数を変動させ緩急をつけるべきであるという仮説の検証のため、1作品を等分に4分割し、頭から区間①~④とし、区間の比較によって1話の大まかなコマ数の変化を調査した。その結果、ページあたりの平均コマ数を比較すると、区間②を頂点とした山型のグラフができた。 しかしながらコマ数が少なくなるという結果の出た区間①は、物語の重要な情報が集中する区間であり、コマ数は増えるように思われる。こうした結果になった原因は、読者への情報の提示に、わかりやすさが優先された結果であり、コマ数は情報と演出の両方から影響を受けていることがわかる。 検証の結果、仮説ⅱ~ⅳは正しい。仮説ⅰに関しては、実際には仮説よりもコマの数が少ないという結果となった。