- 著者
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谷津 貴久
- 出版者
- 川村学園女子大学
- 雑誌
- 川村学園女子大学研究紀要 (ISSN:09186050)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.1, pp.151-158, 2002
視覚系によって認知される対象やその位置についての記憶を視空間記憶(visuospatial memory)と呼ぶ。高齢者と若年者とでこの能力に差があるのかという問題について, 本稿ではこれまでに行われてきた研究を概観することにより考察した。視空間記憶には様々な種類があるが, 本稿ではそれらを実験課題により分類し, 写真・絵の記憶, 単純な線画の記憶, 顔の記憶, 空間(位置)の記憶, 視空間作業記憶として取り上げた。高齢者と若年者との間に見られる記憶能力の差は個々の研究結果で異なり, 両者がほぼ同じである場合と高齢者の成績が低い場合とがあった。これらは課題や刺激の性質に依存し, 高齢者の成績が低下する直接の理由としてフォールスアラームの増加が挙げられた。また, 複数の視空間作業記憶の研究からも年齢差が見られたが, イメージ操作の研究では年齢差の有無について相反する結果が見られた。全体として, 高齢者は日常的な記憶課題については若年者と同程度の能力があるが, 実験室的な非日常的課題では若年者ほどの記憶成績が出ないと結論した。