著者
赤堀 由佳 高木 俊 西廣 淳 鏡味 麻衣子
出版者
日本陸水学会
雑誌
陸水学雑誌 (ISSN:00215104)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.155-166, 2015-12-10 (Released:2017-05-30)
参考文献数
31
被引用文献数
4

近年国内の浅い富栄養湖のいくつかでヒシ属植物の増加が報告されている。本研究では,オニビシの繁茂が水質に与える影響を明らかにするために,印旛沼においてオニビシが繁茂する地点(オニビシ帯)としない地点(開放水面)の水質を比較した。繁茂期(7月から9月)のオニビシ帯は,開放水面に比べ溶存酸素濃度および濁度が有意に低かった。溶存酸素濃度の低下は夜間と底層で顕著であり,無酸素状態になることもあった。濁度はオニビシが繁茂している時期にオニビシ帯の表層と底層両方で低くなった。オニビシ帯では,浮葉が水面を覆うことにより,水の流動は減少し,遮光により水中での光合成量は低下するため,溶存酸素濃度や濁度が低くなったと考えられる。栄養塩濃度に関してはいずれもオニビシ帯と開放水面の間で有意な差は認められなかったが,8月と9月に,アンモニア態窒素濃度が高くなった。オニビシの枯死分解に伴い無機態窒素が放出されるとともに,貧酸素により底泥から溶出した可能性がある。一方,オニビシが繁茂しない時期には,地点間でこれらの水質項目に明瞭な差は見られなかった。栄養塩濃度の差は,地点間の差よりもむしろ季節による差のほうが顕著で,オニビシ帯と開放水面共に,7月から9月は全リン濃度が高く,それ以外の時期は亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素濃度が高かった。印旛沼では,このような栄養塩濃度の季節変動は毎年確認されており,栄養塩濃度の季節変動に与える複数の効果に比べオニビシの効果は小さいと考えられる。