- 著者
-
赤木 智香子
- 出版者
- 日本野生動物医学会
- 雑誌
- 日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.2, pp.49-55, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
- 参考文献数
- 20
動物の福祉とはその個体の身体的・精神的健全性を指す用語であり,「5つの自由」や「5つの領域モデル」がその世界的な基本として知られている。欧米各国の動物福祉基準のベースである動物福祉法は,英国では全脊椎動物が対象であるのに対して,米国では基本的に哺乳類のみである。救護動物の福祉に関しては,救護施設の最低要件全般をまとめたもの,あるいは動物群別に各種要件を記載したものなどNGOによる詳細な基準が欧米には存在している。一方,優れた救護施設の基準が国の基準として採用されているケースもある。個別に発展してきた動物の福祉と倫理ではあるが,現在では両者は複雑に絡み合い切り離すことはできないとの認識であり,動物倫理からさらに大きな枠組みの環境倫理へと視点が移りつつある。このような欧米の状況と比較して,日本の救護動物の福祉は後れを取っている。法律や福祉基準が十分に整備されておらず,収容動物のQOL改善もままならないケースも少なくない。今後はフリーレンジの野生動物としての尊厳を担保しつつ,良い動物福祉の達成を生物多様性保全へとつなげていけるよう,安易な終生飼育の回避などの救護動物の最終処遇も含め,広い視野に立った救護動物の福祉への取り組みが求められる。