著者
阿部 晶子 千葉 舞美 熊谷 佑子 赤松 順子 岸 光男
出版者
岩手医科大学歯学会
雑誌
岩手医科大学歯学雑誌 (ISSN:03851311)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.109-119, 2018-02-09 (Released:2018-03-11)
参考文献数
15

背景岩手医科大学血液腫瘍内科では,造血幹細胞移植中における口腔粘膜障害の発症予防を目的に,造血幹細胞移植チームに歯科医師・歯科衛生士が加わり移植患者の口腔管理を行っている. 今回,移植後に白血病が再発し,再移植を行なった患者について,初回と再移植時の口腔管理を行う機会が得られたので,比較して報告する. 症例と臨床経過 症例は初回移植時41 歳の女性で,2013 年8 月に急性骨髄性白血病のため末梢血幹細胞移植を施行した. その後再発を認め,2014 年6 月に再移植で骨髄移植を施行した. 再移植後,生着が確認されたが,同年9 月,全身状態の悪化により死亡した. 口腔粘膜炎と介入 口腔管理の介入は,移植前処置の施行前から開始し,初回移植および再移植時には,口腔内の状態に応じて,保湿剤,含嗽剤おび軟膏の処方,P-AG 液の服用指導,セルフケアの支援を行った. 再移植では口腔粘膜障害のリスクが高いことを予測し,予防的管理を行ったが,粘膜障害は重症化し,生着し白血球数増加後も口腔粘膜障害が長期間残存した. 口腔粘膜障害が重症化した要因としては,第一に 前処置に全身放射線照射が加わったこと,第二に骨髄抑制時期が長期化したこと,第三に初回の移植による移植片対宿主病が残存していたことなどが考えられた. 結論 再移植では開口障害,粘膜炎による疼痛,全身状態の悪化などにより患者本人のみならず,我々医療スタッフの口腔管理への技術的・精神的負担も大きなものであった. 口腔管理が困難であった今回の症例において、介入を継続するうえで、初回移植時から構築した患者や多職種との信頼関係が大きな力となった。本症例より、患者を含むチーム医療の重要性を再認識することができた。