著者
橋本 律夫 上地 桃子 湯村 和子 小森 規代 阿部 晶子
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.837-845, 2016 (Released:2016-12-28)
参考文献数
26
被引用文献数
3 7

Card placing test(CPT)は我々が開発した新しい視空間・方向感覚検査である.被験者は3 × 3格子の中央に立ち,周囲の格子に置かれた3種類の図形カードの位置を記憶し,自己身体回転なし(CPT-A)または回転後(CPT-B)にカードを再配置する.自己中心的地誌的見当識障害患者ではCPT-AとCPT-Bのいずれも低得点,道順障害患者ではCPT-A得点は正常範囲でCPT-Bが低得点であった.自己中心的地誌的見当識障害患者では自己中心的空間表象そのものに障害があり,道順障害患者では自己中心的空間表象と自己身体方向変化の情報統合に障害があると考えられた.
著者
遠藤 邦彦 阿部 晶子 津野田 聡子 柳 治雄 井佐原 均
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.165-178, 2005 (Released:2006-07-14)
参考文献数
25

音節を認知するときに, 子音と過渡部 (子音から母音への移行部, フォルマントの遷移部) が果たす役割を検討した。認知の手がかりが子音と過渡部, 子音のみ, 過渡部のみにある音を自然言語音から作成し, 失語症31例と健常者18名に語音認知検査を実施した。認知の手がかりとして, 子音は, 過渡部より強力であった。子音を削除した刺激では, 過渡部のフォルマントが手がかりとして有効であった。言語音の中には認知の手がかりが子音にある音と, 過渡部にもある音とがあった。構音点の解読には子音と過渡部の両方の情報が, 構音方法, および鼻音・非鼻音の解読には子音の情報が, 有声・無声の解読には子音または過渡部のどちらか一方の情報が必要であった。言語音の認知にもっとも大きな障害を生じたのは, 左縁上回下部の病巣であった。音声からの特徴抽出が, はじめに子音を, 次に過渡部をもとに二段階でなされると, 精密で高速な語音認知が可能と考えられた。
著者
石原 裕之 穴水 幸子 種村 留美 斎藤 文恵 阿部 晶子
出版者
認知リハビリテーション研究会
雑誌
認知リハビリテーション (ISSN:24364223)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.17-25, 2015 (Released:2022-05-26)
参考文献数
8

我々は左側頭葉と後頭葉の境界部と頭頂葉,右後頭葉外側部の主に皮質下白質の梗塞により,健忘失語,仮名に強い失読,漢字の失書など様々な神経心理学的症状が認められる症例を経験し,その症例に対して複数の認知リハビリテーション介入を行った。その中でも今回は,読み書きの障害や前向性健忘に対する補助手段およびquality of life(QOL)の向上を目的に導入された,タブレット型端末用アプリケーションである高次脳機能障害者の日常生活支援ツール『あらた』の効果を中心に考察した。本例はこのツールを習得して使いこなしたが,これは残存していた能力をうまく利用したためと考えられた。使用開始後は行動範囲が広がる等のQOLの向上や,このツールの読み書きの訓練的意義等が示唆された。認知リハビリテーションには,個々の症状をターゲットにするだけでなく,様々な面からの統合的なアプローチが有効であると考えられた。
著者
川崎 美里 阿部 晶子 橋本 律夫
出版者
一般社団法人 日本高次脳機能障害学会
雑誌
高次脳機能研究 (旧 失語症研究) (ISSN:13484818)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.442-451, 2022-12-31 (Released:2023-01-17)
参考文献数
21

本研究の目的は, 左半側空間無視 (以下, 左 USN) 患者を対象に, 横書き文の改行位置による左無視性失読 (以下, 左 ND) の出現率および眼球運動の差を明らかにすることである。対象は左 USN 患者 5 名と健常者 18 名であった。課題は横書き文章の音読課題を用いた。課題文は改行位置を統制し, 語頭から始まる行 (以下, 語頭条件) と語中から始まる行 (以下, 語中条件) が半数ずつになるようにした。 改行時の左 ND は 5 名中 3 名に認められた。左 USN 患者においては, 左 ND がみられるか否かにかかわらず, return sweep (改行時に行末から行頭に向かうサッケード) の終了位置が行頭よりも右側にとどまった。著明な左 ND がみられた 1 名では, 語中条件よりも語頭条件において行頭文字の読み落としが多く, 語中条件よりも語頭条件の最左停留位置 (視線が最も左方に達した位置) がより右側であった。
著者
橋本 律夫 上地 桃子 湯村 和子 小森 規代 阿部 晶子
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.837-845, 2016
被引用文献数
7

<p>Card placing test(CPT)は我々が開発した新しい視空間・方向感覚検査である.被験者は3 × 3格子の中央に立ち,周囲の格子に置かれた3種類の図形カードの位置を記憶し,自己身体回転なし(CPT-A)または回転後(CPT-B)にカードを再配置する.自己中心的地誌的見当識障害患者ではCPT-AとCPT-Bのいずれも低得点,道順障害患者ではCPT-A得点は正常範囲でCPT-Bが低得点であった.自己中心的地誌的見当識障害患者では自己中心的空間表象そのものに障害があり,道順障害患者では自己中心的空間表象と自己身体方向変化の情報統合に障害があると考えられた.</p>
著者
阿部 晶子 千葉 舞美 熊谷 佑子 赤松 順子 岸 光男
出版者
岩手医科大学歯学会
雑誌
岩手医科大学歯学雑誌 (ISSN:03851311)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.109-119, 2018-02-09 (Released:2018-03-11)
参考文献数
15

背景岩手医科大学血液腫瘍内科では,造血幹細胞移植中における口腔粘膜障害の発症予防を目的に,造血幹細胞移植チームに歯科医師・歯科衛生士が加わり移植患者の口腔管理を行っている. 今回,移植後に白血病が再発し,再移植を行なった患者について,初回と再移植時の口腔管理を行う機会が得られたので,比較して報告する. 症例と臨床経過 症例は初回移植時41 歳の女性で,2013 年8 月に急性骨髄性白血病のため末梢血幹細胞移植を施行した. その後再発を認め,2014 年6 月に再移植で骨髄移植を施行した. 再移植後,生着が確認されたが,同年9 月,全身状態の悪化により死亡した. 口腔粘膜炎と介入 口腔管理の介入は,移植前処置の施行前から開始し,初回移植および再移植時には,口腔内の状態に応じて,保湿剤,含嗽剤おび軟膏の処方,P-AG 液の服用指導,セルフケアの支援を行った. 再移植では口腔粘膜障害のリスクが高いことを予測し,予防的管理を行ったが,粘膜障害は重症化し,生着し白血球数増加後も口腔粘膜障害が長期間残存した. 口腔粘膜障害が重症化した要因としては,第一に 前処置に全身放射線照射が加わったこと,第二に骨髄抑制時期が長期化したこと,第三に初回の移植による移植片対宿主病が残存していたことなどが考えられた. 結論 再移植では開口障害,粘膜炎による疼痛,全身状態の悪化などにより患者本人のみならず,我々医療スタッフの口腔管理への技術的・精神的負担も大きなものであった. 口腔管理が困難であった今回の症例において、介入を継続するうえで、初回移植時から構築した患者や多職種との信頼関係が大きな力となった。本症例より、患者を含むチーム医療の重要性を再認識することができた。
著者
阿部 晶子 稲葉 大輔 岸 光男 相澤 文恵 米満 正美
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

う蝕原性細菌であるミュータンスレンサ球菌は生後19か月から31か月の間に主な養育者が母親である場合、母親を由来として児に定着すると報告されている。しかしながら,我が国における定着時期についての調査は少ない。そこで我々は岩手県平泉町において生後3か月時点から,児のミュータンスレンサ球菌の検出,母親の唾液中ミュータンスレンサ球菌数,齲蝕の発生および育児習慣について追跡調査を行い,これらの関連について検討中である。今回は、2歳6か月時にう蝕の認められた児と、う蝕の認められなかった児について1歳時、1歳6か月時、2歳6か月時の各時期における育児状況のアンケート結果およびミュータンスレンサ球菌の検出状況、母親の唾液中ミュータンスレンサ球菌数との関連について比較検討を行った。その結果、2歳6か月児のう蝕有病者率は21.1%、一人平均df歯数は0.93本であった。2歳6か月時におけるう蝕発症の関連要因を知る目的で、2歳6か月時のう蝕の有無を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った結果、1歳時における哺乳瓶による含糖飲料の摂取,大人との食器の共有,2歳6か月時における毎日の仕上げ磨きの有無、1歳時および1歳6か月時におけるミュータンスレンサ球菌の検出状況が有意な関連要因であった。また、ミュータンスレンサ球菌の検出時期と2歳6か月時におけるう蝕発症との関連をみてみると、1歳時からミュータンスレンサ球菌が検出された児は、2歳6か月時に初めてミュータンスレンサ球菌が検出された児に比較して有意に高いう蝕発症率を示した。今回の調査結果から、児の口腔内のシュクロースの存在がミュータンスレンサ球菌の早期定着を促し、その早朝定着がう蝕発症要因の一つであることが示唆された。