- 著者
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藤巻 朗
赤池 宏之
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 基盤研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2016-04-01
平成29年度は、初期位相差が通常のジョセフソン接合に比べπだけずれるπシフト磁性ジョセフソン接合を使った新しい半磁束量子回路の提案を行った。回路の解析は、当初は数値解析で行ったが、横浜国立大学で開発されたπシフト接合も扱える回路シミュレータの提供を受け、後半は、それを用いて解析を進めた。その結果、ほぼ確立された超伝導回路技術である単一磁束量子回路のジョセフソン接合を、0-πSQUIDで置き換えることで、高速性と低消費電力性を示す超伝導回路を構成できることを明らかにした。ここで、0-πSQUIDとは、従来のジョセフソン接合1個とπシフトジョセフソン接合1個を超伝導ループに含む超伝導量子干渉デバイスである。信号とπの位相差変化が対応していることから、明確な半磁束量子回路ということができる(単一磁束量子の場合の位相差の変化は2π)。一方実験では、磁性ジョセフソン接合の制御性・再現性について、研究を進めた。超伝導電極材料にNb、強磁性体にはNiを原子パーセントで11%含むPdNi合金、トンネル障壁層にはAlOxを用いて、Nb/AlOx/PdNi/Nb構造を形成した。PdNi合金は、同時スパッタ法によって成膜し、厚さは時間で制御している。πシフトは、超伝導電子のスピンの向きが強磁性体の交換相互作用により反転することで実現する。したがって、PdNi層の膜厚に対して、特性は敏感であるが、我々の実験では10nmから15nmの幅で面内均一性良くπ接合が得られることが分かった。これを用いて、1/2分周回路を設計、試作した。1個の回路において1THzの動作速度が確認された。これは、19年前に記録された760GHzを上回る結果となっている。現在、再現性を調査中である。このように、数値解析、実験において、半磁束量子回路が従来にない性能を持つことを実証しつつある。