- 著者
-
赤石 孝次
- 出版者
- 日本財政学会
- 雑誌
- 財政研究 (ISSN:24363421)
- 巻号頁・発行日
- vol.1, pp.195-212, 2005 (Released:2022-07-15)
- 参考文献数
- 35
本稿は,福祉国家財政の一般消費税(general consumption tax)への依存が国際的に進む中で,日本の同税への依存が低位にとどまっている理由と帰結を,歴史的新制度論アプローチと社会契約論アプローチを結合することで明らかにしている。第1に,総税負担の増大と逆進的課税への依存が,政治制度構造とそれによって醸成された社会契約によって規定されたということである。日本では,単記非委譲式中選挙区制度(single non-transferable vote,以下,SNTVと記す)のもとで,雑多な利益集団の支持を得るために,自由民主党(自民党)はそれらの集団との間に一連の社会契約を取り決めてきた。しかし,このことによって政治エリートが短期的なコストを課すことが妨げられ,そのことが寛大な福祉国家建設と引替えに逆進的な税負担の増大を受容するという西欧的な租税政策の展開を不可能にした。第2に,日本的な制度的枠組みの中で重視された生産者重視の政策は,政府の再分配機能に対する国民の理解を矮小化させ,政府の役割に対する彼らの不信を定着させた。このことは,グローバル化と高齢化が進む中で,政府が福祉国家の財源として消費税の負担を引き上げることを困難にしている。