著者
辻井 弘忠 赤羽 明子
出版者
信州大学
雑誌
信州大学農学部紀要 (ISSN:05830621)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.125-138, 1994-12

本実験では,日本在来馬のうち木曽馬を中心に電気泳動法を用いて血液蛋白質型を分析し,遺伝形質としての特徴を解析することを試みた。供試馬は,木曽馬24頭の他に,北海道和種,対州馬,トカラ馬,サラブレッド,ブルトンおよびペルシュロンを用いた。血液蛋白質型の分析に用いた電気泳動法は,水平式ポリアクリルアミドグラジェンゲル電気泳動法(HPAGE法),ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGIEF法),澱粉ゲル電気泳動法の3種を用いた。各血液蛋白質型の対立遺伝子頻度を算出した結果,遺伝子構成には馬種間の差異があることが判った。特に,Tf(トランスフェリン)型,Es(エステラーゼ)型およびHb(ヘモグロビン)型においては,馬種間の差異のみならず,日本在来馬とサラブレッドおよび重種馬の遺伝子構成の違いを認識することができた。つまり,Tf型に関しては,TfF は木曽馬のみに,TfH1は北海道和種のみに,TfF1 はサラブレッドのみにみられた。Es型に関しては,EsH は木曽馬および北海道和種に,EsO は木曽馬のみにみられた。また,Hb型に関しては,HbAはトカラ馬を除く日本在来馬のみに見られた。また,木曽馬において従来報告されたものと比較して,頭数の急激な減数が始まる前と後では遺伝子構成に変動がみられた。特にTf型では,消失したと思われる対立遺伝子を2種類確認できた。これは集団サイズの急激な縮小による機会的遺伝浮動の影響であると考えられた。