著者
越智 百枝 酒井 由紀子 高尾 良子
出版者
香川大学
雑誌
香川大学看護学雑誌 (ISSN:13498673)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.57-64, 2007-03

研究目的は,断酒会に参加しているアルコール依存症者のどん底体験とそれに至るプロセスを明らかにすることである.方法は質的帰納的研究である.対象は断酒会員10名で,倫理的配慮に基づき研究趣旨を説明し同意を得た.データ収集はどん底体験をテーマにグループインタビユーを行い,収集時間は135分であった.分析は逐語録を意味のある文脈で区切り,類似する意味内容を分類しカテゴリ化した.また得られたカテゴリを対象ごとに時系列に並べ,どん底体験とそれに至るプロセスについて分析した.対象は男性9名と女性1名で,年齢は40〜60歳代,断酒期間は平均5.2年であった.分析の結果,192コード,80サブカテゴリ,40カテゴリ,8コアカテゴリを形成した.対象はどん底体験を出来事として語った.その出来事は,断酒以前は[飲酒の継続による社会生活上の関係性の断絶]と[飲酒の継続による自己概念の揺らぎ]であった.断酒後は,[再飲酒による自分の末路の確信]であった.またどん底体験に至るプロセスは2つのプロセスであった.ひとつは,断酒前に,再飲酒と一時的断酒を繰り返しエスカレートする飲酒の末に,「社会生活上の関係性の断絶」あるいは「自己概念の揺らぎ」によって底をついていた.その体験がどん底体験になる場合は負の感情体験と内省が伴い,それが重要な役割を果たしていると考えられた.もうひとつは,断酒後に,他者の体験に自分の体験を重ね,「再飲酒による自分の末路の確信」をすることで底をついていた.また本研究では新たにどん底体験が断酒後にも見られることが明らかになり,この体験が断酒の継続の維持につながっていた.アルコール依存症者の支援として,治療導入のタイミングを図ることや自己の内省化の促進,断酒会への導入,家族への教育と支援の必要性が示唆された.