- 著者
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酒井 由紀子
- 出版者
- 三田図書館・情報学会
- 雑誌
- Library and information science (ISSN:03734447)
- 巻号頁・発行日
- no.65, pp.1-35, 2011
原著論文【目的】本研究の目的は, 健康医学情報を伝える日本語テキストのリーダビリティの改善と評価の一連の手続きにおいて, 包括的な改善方法と評価方法を記述的に確認し, 今後の研究課題を明らかにすることにある。【方法】医師が執筆した, 慢性化膿性中耳炎の一般市民向けの日本語説明テキスト1件を取り上げ, 改善と評価の実験を行った。最初に, リーダビリティに影響するとされる構文, 語彙, テキスト構造のすべての要素について, 方法を変えて改善したテキストを2種類用意し, オリジナルテキストと合わせテキスト分析を行った。次に, 大学生91名にこれら3種類のテキストのいずれかを割り当て, Webテストを行った。テストでは, 読みやすさの指標としてテキストを読む所要時間を計測した。内容理解のしやすさの指標として, 選択肢問題の回答と, 「読みにくい点・わかりにくい点」の具体的な指摘を求めた。【結果】構文的要素を改善し, 語彙的改善として医学・医療用語に解説をかっこで補記し, テキスト構造を簡易な方法で改善したテキストAは, 内容理解テストの平均スコアはオリジナルテキストより高かったが, 読みの所要時間は長かった。構文的要素を改善し, 医学・医療用語を一般的な用語や表現に置き換え, テキスト構造を入念に改善したテキストBは, 読みの所要時間は短縮されたが, 内容理解テストの平均スコアはオリジナルテキストと変わらなかった。また, 本人に罹患経験があると所要時間が有意に短かった。これらの結果から, 1)構文的改善は読みやすい印象を与えるが, 他の要素の改善と対立が生じることがある, 2)医学・医療用語の改善は自然な置き換えや文中での説明の補足が望ましい, 3)テキスト構造は, 今回の改善・評価方法では問題が多くその効果は明らかではない, 4)読み手としての人の特性を考慮した評価が必要である, 5)内容理解を正確に測定する選択肢問題の作成に課題があることが確認された。