著者
趙 方任
出版者
大妻女子大学人間生活文化研究所
雑誌
人間生活文化研究 (ISSN:21871930)
巻号頁・発行日
vol.2020, no.30, pp.268-282, 2020-01-01 (Released:2020-04-09)
参考文献数
48

喫茶に水は欠かすことができない.中国の喫茶文化において,茶の味をよりいっそう引き出すために,各地,各種の水を飲み比べてその品質を定め,優れた水を選び,水のランキングをつけるということを行う.そうした行為,およびその鑑定結果,判断基準などを中国茶文化では「水品」と言う. 「水品」と言った場合,大別すると二つの異なる概念が含まれている.一つは,実際に水の品質を定める行為と,その判断の結果であり,もう一つは,「水の品質の判定基準」,つまり「良い水の基準」である.そこで本稿では,前者を「水品実践」,後者を「水品基準」と呼ぶことにする. 今までの研究では,古人の「水品」に関する諸説の矛盾について論及したものは見当たらない.また,「水品」に関する理論面での時代変遷に応じた変化,それに伴う各時代の特徴について言及したものは見当たらない.この面で言えば,本稿は中国茶文化研究領域において,「喫茶用水」に関する初の全面的な研究になる. 本稿は,文献を中心に,そして中国の唐・宋・明・清の四代を中心にして,喫茶文化における「水品実践」及び「水品基準」の時代特徴,そして,それぞれの歴史的な変遷について考察して行く. そして,本校は「水品実践」と「水品基準」について,歴代の特徴を述べた上,その時代の変遷の特徴を発見し,まとめた.つまり,「水品実践」の変遷では,(唐)ランク付けをおこない活発な動き→(宋)前時代を踏襲し,地味で新鮮味に欠ける→(明)新しいランク付けが起き,再び活発化→(清)前時代を踏襲し,地味で新鮮味に欠ける,という結果であった.一方,「水品基準」では,(唐)水は「重」を良いとした→(宋)水は「軽」を良いとした→(明)再び「重」に→(清)また「軽」に,という変遷だった. 本稿は最後で表を作り,その原因について,下記のように分析した. 唐代と宋代は多少の変化はあるものの,本質的には同じ喫茶法,同じ茶だった.そして明代と清代も同じ喫茶法,同じ茶だったのである.しかし,「水品実践」と「水品基準」になると,唐代と宋代,明代と清代は異なってしまい,唐代と明代,宋代と清代が同じになるのである.唐代と明代が「水品実践」と「水品基準」が同じなのは,喫茶特徴として挙げた「新しい喫茶法の確立時代」で,宋代と清代が同じなのは,「前時代の喫茶法を継承した」からである. また,「重」と「軽」という「水品基準」の変遷は喫茶法継承の宋代と清代は「繊細さ」を追求するので,中国茶文化では,「淡」と表現するが,「軽」水を好む結果につながったと分析した.