著者
足立 純一郎
出版者
慶應義塾大学出版会
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.181-198, 2007-06

商学部創立50周年記念 = Commemorating the fiftieth anniversary of the faculty論文本稿は,iPod とWalkman の戦いをめぐり,カーネマン等によって展開された行動経済学による分析を行うことを目的としている。 従来,この戦いをめぐっては主に,競争戦略的な観点からの分析や,楽曲の著作権という観点での分析がなされていた。しかし競争戦略的研究をマイケル・ポーターの5 つの競争要因によって再構成し,著作権的研究をデムゼッツの所有権理論によって再構成したところ,前者では,戦略の妥当性をはかる事前の判断基準が欠如しており,後者では,理論的帰結に至るまでの経過時間に対する措置が欠けているなど,いずれも現時点での帰結を十分に説明できておらず,経営者の戦略立案に対する示唆にも乏しいことがわかった。 一方,現時点での帰結を説明するために,行動経済学の心理会計の枠組みを使って時系列・複数段階でのSony とApple の戦略を検討すると,ユーザーの選好が明確になり,なぜユーザーがiPod を選択したかを理解することができると同時に,今後の政策的含意も得られることがわかった。従来,ファイナンス分野における応用が先行していた行動経済学であるが,これらの分析によって,経営戦略の分析にも有効であることが示されるであろう。