著者
輿石 哲也
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Ab1330, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 臨床において筋力・筋持久力増強等の運動療法を行う際に、患者から疲労感の訴えを聞くことがある。しかし、どの程度の疲労感で運動を一時中止し休憩を挟むべきか、また最大筋力の低下が起こり、筋疲労が起こるかの先行研究は少ない。そこで今回、筋持久力に着目し、主観的な疲労感と筋疲労の関係を明確にすることを目的として、自覚的運動強度のScaleである15段階のBorg Scaleを疲労感の指標に、中等度の運動負荷で膝関節伸展運動を反復する運動課題を行った。その後、どの程度の疲労感から筋疲労が起こるか、群間における運動課題前後の筋力の変化率を比較し検討した。【方法】 対象は健常成人女性60名(年齢27.1±5.3歳、身長158.0±5.3cm、体重52.4±7.4kg)、対象を15名ずつ4群に分け、Borg Scaleを疲労感の指標にし、Borg Scale 13「ややきつい」まで運動課題を行う群(以下BS13群)、Borg Scale 15「きつい」まで行う群(以下BS15群)、Borg Scale 17「かなりきつい」まで行う群(以下BS17群)、運動課題を行わないcontrol群(以下C群)とした。筋力測定・運動課題の開始肢位は、端座位で両腕を胸の前で組み、右膝関節90°屈曲位、下腿は下垂した肢位とした。筋力測定は、各群とも運動課題前後に実施し、右大腿四頭筋の最大筋力を3回測定し平均値を求めた。測定方法は、Hand-held dynamometerアニマ社製μ-Tas F-01(以下HHD)を使用し、センサーを下腿遠位部前面に付けベッド脚と固定用ベルトで連結した。また、最大等尺性収縮で5秒間測定し、30秒以上の休憩を挟んだ。運動課題は、重錘バンドを右下腿遠位に着け、2秒に1回のペースで右膝関節伸展運動を反復させた。重錘バンドの重さは、女性の体重の24%から膝関節伸展運動の最大挙上重量の予測値を算出し、予測値の40%に設定した。また、運動課題の量は、Borg Scaleの表を見ながら、右大腿四頭筋がBS13群は「ややきつい」、BS15群は「きつい」、BS17群は「かなりきつい」とそれぞれ感じるまで運動を反復し、運動課題を中止させた。運動課題前後の最大筋力の変化率は、(運動後最大筋力-運動前最大筋力)/運動前最大筋力×100で算出し、各群間の変化率を比較した。統計処理は、Kruskal-Wallis検定後、scheffe法による多重比較を行った。有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は、当院の倫理委員会の承認を得て実施した。また、対象に対して本研究の目的や方法を説明し、署名による同意を得た。【結果】 運動課題前後の最大筋力の変化率はC群0.02±2.89%、BS13群-4.79±7.34%、BS15群-15.10±12.50%、BS17群-21.88±12.42%であった。検定の結果、C群とBS13群では最大筋力の変化率に有意差が認められず、C群とBS15群、BS17群では有意差が認められた(p<0.01)。また、BS13群とBS15群、BS13群とBS17群では有意差が認められた(BS13群-BS15群:p<0.05、BS13群-BS17群:p<0.01)。BS15群とBS17群では有意差が認められなかった。【考察】 筋疲労とは、筋収縮を連続して行う際、筋力低下が起こることであり、疲労とは生体がある機能を発揮した結果、その機能が低下する現象や組織・器官の興奮性が低下する現象、また、予防的な警告であり、疲労困憊に陥る前に活動をやめさせる神経メカニズムや生体の防御反応といわれている。今回の結果から「ややきつい」の疲労感では筋力低下が起こらず、「きつい」の疲労感では筋力低下が起こり、筋疲労が起こっていると示唆された。これは、「ややきつい」と「きつい」の間で筋疲労が起こり始めており、「ややきつい」の疲労感は筋疲労が起こる前の警告、「きつい」の訴えは筋疲労が起こっている警告として捉えられると考えられる。宇都宮は、最大筋力の15~40%の負荷で疲労が起こるまで反復すると筋持久力増強に効果があると述べている。本研究も同様に最大筋力のおよそ40%の負荷をかけていたため、筋持久力増強における反復量は、筋疲労が起こり始める「ややきつい」と「きつい」の間までの反復が適切と考えられる。また、筋疲労の起こり始めに休憩を挟むことで、過度な疲労の蓄積を防ぎ、過負荷の予防につながると考えられる。今後は、疾患の有無や性別・年齢による違い、疲労感による目安が筋力・筋持久力増強時の運動負荷量の指標になるか検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】 Borg Scaleを指標にした今回の結果から、「ややきつい」の疲労感では筋疲労が起こらず、「きつい」の疲労感から筋疲労が起こっていた。臨床においては、「ややきつい」と「きつい」の疲労感の間で注意を払う必要があると示唆された。これは、筋疲労の有無の判断となり、運動負荷量の設定や運動療法時に休憩を挟み、過負荷を予防するひとつの目安になると考えられる。