著者
辰喜 亮介
出版者
昭和大学学士会
雑誌
昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.513-521, 1990-10-28 (Released:2010-09-09)
参考文献数
17

骨格筋として横隔膜の機能的特徴を明らかにするために, その筋線維構成の比較検討を行った.研究対象は46~86歳の病理解剖屍8例 (男性3, 女性5) から得られた横隔膜で, 胸骨部, 右肋骨部, 腰椎部右外側脚の各々の起始と停止の中間部で採取したものである.筋組織の染色はSudan Black B染色により, 筋層の厚さ, 1mm2中の筋線維数, 三筋線維型の比率, 太さ, 密度を各部について検討するとともに, 同一方法による他筋と比較した.結果は次の如くである.1) 横隔膜筋層の厚さは各部の平均2.1~2.5mmで, 腰椎部が最も厚く, 以下肋骨部, 胸骨部の順であったが, その差は僅かであった.他筋と比べて, 棘腕筋よりも薄く, 側腹筋や下咽頭収縮筋と大よそ等しかったが, 内腹斜筋よりもやや劣っていた.2) 1mm2中の筋線維数は各部の平均532~608で, 腰椎部が最も多く, 女性が男性よりも多い傾向が見られたが, その差は僅少であった.他と比較して, 下咽頭収縮筋および大腰筋よりも男女ともに少なく, 上腕の筋よりも男性では多く, 女性では等しかった.3) 三筋線維型の比率は各部とも大よそ白筋線維2/3, 中間筋線維1/3, 赤筋線維1/30で性差を認め難く, 他筋に比べて赤筋線維が著しく少なかった.4) 筋線維の太さは一般に肋骨部では白筋線維, 中間筋線維, 赤筋線維の順に大の傾向が見られたが, 胸骨部と腰椎部では白筋線維と中間筋線維との間には差がなく, 赤筋線維のみ小であった.男性は常に女性よりも大で, 赤筋線維ではその傾向が著しく, 部位別には各筋線維型とも常に腰椎部が最も小であった.他と比べると, 白筋線維は上腕の筋よりも男性では小, 女性では大であり, 大腰筋, 下咽頭収縮筋よりも男女とも大であった.赤筋線維は下咽頭収縮筋よりも男女とも大, 上腕の筋よりも男性は小, 女性例は等しく, 大腰筋とは男女とも等しかった.5) 筋線維の密度は90%前後で, 胸骨部と肋骨部はほぼ等しく, 腰椎部がやや劣る傾向が見られた.以上のことから, 横隔膜の高さや運動についての個体差には, その厚さや筋線維構成の部位差が密接に関連することが考えられた.