- 著者
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辰已 知広
- 出版者
- 京都大学大学院人間・環境学研究科
- 雑誌
- 人間・環境学 (ISSN:09182829)
- 巻号頁・発行日
- vol.29, pp.39-48, 2020
本稿は, 1954年に映画製作を再開した日本の映画会社「日活」の歴史を, 衣裳の検証を通じて解明することを試みるものである. 映画衣裳については, 欧米の研究者が1970年代頃よりその重要性を指摘し, 直近三十年程で研究を充実させた経緯があるものの, 日本映画の衣裳そのものを詳細に分析した先行研究はほとんど存在しない. こうした状況に鑑み, 本稿では, 日活が一時中断していた映画製作を再開した1954年から62年までに公開された代表的な作品を取り上げ, 日活の歴史とその独自性を, 衣裳を通じて振り返るとする. 第1節では, 日活専属のスクリプターであった白鳥あかねの証言をもとに, 当時の日活が森英恵に多くの衣裳製作を依頼していたことや, 撮影所システムの下で衣裳がどのように扱われ, 最終的に決定に至ったのかを明らかにし, 整理する. 続く第2節では, 文芸作品からエンターテイメント路線への変更によるアクション作品までにおける, 特徴的な男女の衣裳をピックアップし, それらの機能や意味を, 日活衣裳部員の証言を交えつつ, 時代の流れや風俗と共に考察する. 最後に第3節では衣裳の変遷をジェンダーの観点から捉え, 当時の日活が「男性路線」と言われつつも, いかに女性観客を意識した男性像を視覚化していたかを論証し, 結論へと導く.