著者
辻 宏一郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

大気大循環モデル(AGCM)で解像できる重力波の運動量フラックスが、熱帯域下部成層圏において東西方向に非対称な分布をしている原因について調べた。東半球の正の運動量フラックスは、夏季インドモンスーンによる強い平均の東風シアーとの相互作用によって東向き伝播の重力波が生成されることで出来ていた。西半球での負の運動量フラックスは、平均風と波の相互作用よりむしろ、太平洋や大西洋における大規模な(1000km-)cloud clusterの伝播方向に大きな東西非対称性があることが原因と考えられた。西進する雲クラスターが東進するものに比べ卓越しており、この西進する雲と、西向き伝播の重力波の間に強い関係性があると考えられる。以上の結果については、2004年度春季気象学会で発表を行った。さらに、論文として現在投稿中である。また、より長い周期を持つ波動についても同様の解析を行った。1980年から1999年まで20年分のECMWFデータを用いた統計的解析を行った。大気の変動成分を3日以下、3日から10日、10日以上の3成分に分け、各成分毎に運動量フラックスの地理的分布及び季節変化を調べた。どの成分においても、東半球において正の運動量フラックスが卓越していた。3日以下成分では、上部対流圏における、モンスーンによる東風が強い地域で正の運動量フラックスが卓越していて、AGCMにおける重力波分布と矛盾しなかった。3日から10日周期成分では、正の運動量フラックス分布はWheeler and Kiladis(1998)に見られるケルビン波の活動度分布と似ており、西半球まで正の値が広がっていた。10日以上周期成分では、赤道域を中心とする正の運動量フラックスが南北方向にも広がっており、季節内振動の影響が示唆された。