著者
山村 則男 辻 宣行
出版者
佐賀医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

平成四年度では4つの保護形式、両親保護、オス保護、メス保護と無保護のいづれが純粋戦略になるかを、性比、両親保護と片親保護の場合の子供の数の比、片親保護と無保護の場合の子供の数の比の3つのパラメータで記述した。保護形式を決定する重要なパラメータは性比であることがわかった。また父性の不確かさがメス保護が多い理由のひとつであろうと思われた。オス保護とメス保護が重なったり、両親保護と無保護が重なったりする場合もある。どちらになるかは過去からの進化の歴史が決定する(3つのうちのどのパラメータが変化したか)。これらの結果はBehavioral Ecologyに掲載された。平成五年度は保護形式の多型に論点を移した。同一種内に複数の保育パターンが存在するもの(例えば地中海のクジャクベラ)、あるいは近縁種のグループ内に多種の保育パターンが存在するもの(例えば、一夫多妻の鳥、カエル類)等の実際の生物と、我々のモデルとの比較対応を行った。各分類の専門の生態学者からの情報をもとにして、モデルの予測と、その実際の保護形式を比較検討中である。また我々のモデルにおいては、実効性比が一番重要であったが、はたして性比が本当に一番影響が大きいのかを実際の生物で検討中である。また、保育行動の進化の統一的理論として遺伝的、生態的な総合的考察はその問題の大きさのために完了していない。一方、保育とは血縁関係のある親と子供の利益の対立である。保育することで親は繁殖の機会を失うが、子供は生存率が増す。即ち、親はできるならば保育はやりたくなく、子供は親にやらせたい。このような血縁のあるもの同士での利害の対立を、京都大学・阿部琢哉、東正彦らと共に数理モデルで検討した。この結果はEvolutionに掲載された。