著者
佐藤 清治
出版者
佐賀医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

これまで我々は、多剤耐性に最も関与している多剤耐性遺伝子MDR1の発現誘導に関し研究を続けており、種々の抗癌剤や紫外線等によってこの遺伝子の発現誘導がかかるエレメント(inverted CCAAT box)をプロモーター上に決定している。そして、これらのストレスによりこのエレメントに、ある転写因子が結合しMDR1遺伝子の発現を誘導している事実を見出していた。今年度は、サウスウエスタン法を用いてλgt 11 cDNAライブラリーよりスクリーニングを行い、この転写因子(MDR-NF1と命名)のcDNAを分離・同定した。そこでクローニング出来たMDR-NF1のDNA結合領域であるcDNAの塩基配列を決定すると、ヒトMHCクラスII遺伝子プロモーター上のY-boxに結合する転写因子YB-1と同一である事が示唆された(論文作成中)。また、この転写因子がリン酸化に関与していることこともすでに見出していた為、今回は、MDR1プロモーターの発現誘導におけるリン酸化阻害剤(H-7)の関与を調べてみた。その結果、H-7はMDR1プロモーターの発現誘導において、高濃度では紫外線や制癌剤によるMDR1promoterの発現誘導を、恐らく転写因子のリン酸化を阻害することによって抑制していることが推察され、逆に、低濃度ではMDR-NF1とinverted CCAAT boxとの結合を増すことによりMDR1promoterの発現を誘導するという、濃度特異的な2つの作用を持つことが判明した(Cellular Pharmacology,2:153-157,1995)。これにより、治療を含めた薬剤などによるこの耐性遺伝子の調節には、その使用法に詳細な検討を必要とすることが示唆された。今後この転写因子(MDR-NF1)の抗体の作製、臨床サンプルへの応用へと進める予定である。
著者
篠田 謙一
出版者
佐賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

平成13年度に追加した新たな試料は、福岡県鞍手郡新延野田遺跡から出土した人骨である。この横穴遺跡は古墳時代のものであるが、この地域の弥生時代のサンプルが手に入らなかったので、古墳時代の遺跡を選択した。全部で6個体のサンプルからDNAを抽出し、PCR法を用いてミトコンドリアDNAのD-loop領域の一部を増幅した。残念ながら人骨の保存状態が悪く、塩基配列の決定ができたのは一個体のみであった。現代人との相同検索の結果、この配列は琉球の現代人と一致することが判明し、その系統は日本の基層集団に由来する可能性が示唆された。本年度は研究の最終年度であるので、これまでに蓄積した古人骨データを用いて、縄文・弥生・現代日本人の関係を解析した。その結果、以下の事柄が明らかとなった。1.縄文人とアイヌ・琉球の人々とは共通するミトコンドリアDNAハプロタイプを持ち、その近縁性が確認された。2.同時に縄文人と朝鮮半島の人々との間にも共通する配列が多く出現し両者の近縁性も無視できないことが新たに判明した。3.縄文人には南太平洋諸島に特有なミトコンドリアDNAの配列は存在せず、今回の解析でもたらされたデータからは縄文人の南方起源ないし密接な関係は支持されない。むしろ縄文人の起源は、アジアの広い地域に散在しているように思える。4.唐古・鍵遺跡のmtDNAのタイプは、モンゴル等の北方系の集団やアイヌと共通の塩基配列を持ち、最近の遺伝学的な研究の結論から演繹すれば、縄文系の特徴を持つと考えられる。5.渡来系弥生人にはアイヌ・琉球と共通する塩基配列も存在するが、その割合は縄文人ほどではない。6.本土日本人と縄文・弥生人との間には、共に共通する配列があり、両者が現代日本人の祖先であることが示唆された。
著者
森澤 佳三 小峯 光徳 山下 和洋
出版者
佐賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

過伸展ストレスが肩関節におよぼす影響を調査することで、肩関節痛が発生する機序について検討した。動物実験では、Lewis ratを用いて牽引負荷が腱板の血流に対してどのような影響をおよぼすかを水素クリアランス法とLaser doppler flowmetry(ADF21D Advance co.)を用いて調査したが、血流に関しては一過性に上昇して低下するものや、一定しないものがあり、血流だけでは明確な変化は捕えられなかった。しかし、4匹のratで交感神経の活動性をpower spector解析による高速フーリエ変換で測定すると、65gないし100gの負荷で交感神経の活動の亢進がみられるもののそれ以上の負荷では亢進はプラトーあるいは減少に転じているという興味深い結果が得られた。神経分布については、神経終末などの分布については、牽引ストレスを加えたことでの変化は認められなかった。実際の症例ではLaser doppler flowmetryを用いて28例の腱板の血流を測定したが、牽引ストレスを加えると一過性に血流の増加が起り、それに引き続きすみやかな血流の低下が認められた。血流はストレス前よりやや低下したが、すぐにほぼ安静時の血流に戻った。牽引をやめても血流の低下が改善しない例が4例あった。実際の症例で組織学的検索を行った6例では、神経終末などの分布の違いはあったが、血流の変化との関連性はなかった。不安定性との関連性も不明であった。腱板の血流が牽引ストレスで著しく変化することは証明されたが、そのことと肩痛発現の関連性は明らかでなかった。今後、腱板が人間により類似した動物を用いて、実験することでその疑問点が明らかになる可能性があるのではと思われた。
著者
井上 悦子
出版者
佐賀医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

「目的」この研究は100歳長寿者の健康度,生活像及び生活支援ニードを明らかにすることを目的とした。「対象」佐賀県に在住する100歳長寿者で承諾の得られた79名を対象とした。「方法」半構成的質問紙を介した面接調査を1.HDS-R 2.Barthel Index 3.老研式IADL 4.AADL 5.PGCモラールスケール6.ライフイベント調査(喜び悲しみの体験,苦労したこと,生きがい)の測定具を使用して行った.「結果」年齢100歳-107.(平均10.1.2)性別男性6名,女性73名,居住場所.在宅22名(27.8%)施設57名(72.2%),HDS-R.8.52,Barthel Index45.38,老研式IADL1.59,AADL1.42,PGCモラールスケール8.79であった。80-90歳寿者24名を同じ尺度で行った調査結果は.HDS-R 19.75,Barthel Index96.67老研式IADL8.21,AADL8.35,PGCモラールスケール9.63であった。身体的能力及び認知能力においては100長寿者と80-90歳寿者の群間にt検定において有意差(P<0.01)があった。ライフイベント調査では両群間においての有意差はなかった。ライフイベントによる生きがいについては,明確に自分の生きがいを答える事ができた者は21名(26.6%)であった。生きがいがあると答えたものには「佐賀県で長寿者一番になるやゲイトボールで勝つ事など人生に対して目的があり,まだまだ何年でも生きたい」と意欲的であった.生きがいがないと答えた対象者はその理由として「ここまで長く生きたからもう十分という満足感」と「長く生きても仕方が無い」「夫・子供・友達も逝ってしまった」という無力感や寂寥感が述べられた。佐賀県に居住する100歳長寿者の主観的幸福感は身体動作能力,認知能力の高い者が生活においても満足しているが全体の概ね1/4の回答によるものであり対象者全体の中では少数である。この考えにおいて100歳長寿者全体としての満足度は低いと考えられる。100歳長寿者がますます増える傾向にあるが,身体能力が低下してない80代からのADLの強化につながる活動計画が100歳長寿者の生活満足感を得る一つの方策と考える。
著者
山村 則男 辻 宣行
出版者
佐賀医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

平成四年度では4つの保護形式、両親保護、オス保護、メス保護と無保護のいづれが純粋戦略になるかを、性比、両親保護と片親保護の場合の子供の数の比、片親保護と無保護の場合の子供の数の比の3つのパラメータで記述した。保護形式を決定する重要なパラメータは性比であることがわかった。また父性の不確かさがメス保護が多い理由のひとつであろうと思われた。オス保護とメス保護が重なったり、両親保護と無保護が重なったりする場合もある。どちらになるかは過去からの進化の歴史が決定する(3つのうちのどのパラメータが変化したか)。これらの結果はBehavioral Ecologyに掲載された。平成五年度は保護形式の多型に論点を移した。同一種内に複数の保育パターンが存在するもの(例えば地中海のクジャクベラ)、あるいは近縁種のグループ内に多種の保育パターンが存在するもの(例えば、一夫多妻の鳥、カエル類)等の実際の生物と、我々のモデルとの比較対応を行った。各分類の専門の生態学者からの情報をもとにして、モデルの予測と、その実際の保護形式を比較検討中である。また我々のモデルにおいては、実効性比が一番重要であったが、はたして性比が本当に一番影響が大きいのかを実際の生物で検討中である。また、保育行動の進化の統一的理論として遺伝的、生態的な総合的考察はその問題の大きさのために完了していない。一方、保育とは血縁関係のある親と子供の利益の対立である。保育することで親は繁殖の機会を失うが、子供は生存率が増す。即ち、親はできるならば保育はやりたくなく、子供は親にやらせたい。このような血縁のあるもの同士での利害の対立を、京都大学・阿部琢哉、東正彦らと共に数理モデルで検討した。この結果はEvolutionに掲載された。
著者
簑田 昇一 久場 健司
出版者
佐賀医科大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1987

ウシ蛙の交感神経節細胞を用いて節前線維の頻回刺激後に生じるシナプス電位(fastEPSP)の長期促進現象(pre-l.t.p.)を調べ次の事を明らかにした。pre.-l.t.p.は伝達物質Achの放出量が長期間増大して発生する。pre.-l.t.p.の発現中ではpair pulseで発生した短期促進は減少し、自発性微小シナプス電位の発現頻度は増大する。CaイオノフォアであるAー23187によりpre.-l.t.p.は増大し、Ca^<2+>緩衝剤quin-2/AMによってその発現は抑制される。これらの結果は、pre.-l.t.p.の発現にCa^<2+>が必要であり、その発現中には神経終末内の基準Ca^<2+>濃度の持続的な増大が生じている事を強く示唆している。pre.-l.t.p.の発生に第2メッセンジャー(プロティンキナーゼ系)が関与しているか否かを検討した。Cキナーゼの活性剤であるフォーボールエステルとジアシルグリセロールのアナログであるOAGはシナプス伝達の効率を増大する。しかしpre.-l.t.p.はこれらの薬物下でも発生しocclusionは生じない。Cキナーゼ阻害剤Hー7を長時間投与してもpre.-l.t.p.は発生する。更にCキナーゼの他にcAMP依存性又cGMP依存性プロティンキナーゼやミオシン軽鎖キナーゼに対しても高い阻害作用をもつstaurosporine存在下においてもpre.-l.t.p.は発生する。それ故上記のプロティンキナーゼ類はpre.-l.t.p.の発生機序には無関係と思われる。一方、カルモジュリン(CaM)阻害剤であるtrifluo-perazineを投与すると、pre.-l.t.p.の発生は抑制される。このことはpre.-l.t.p.の発現にCa/CaM依存性キナーゼが関係している可能性を示唆している。よって別の阻害剤であるWー7やCa/CaM依存性キナーゼ活性剤などのpre.-l.t.p.に対する作用、又これら薬物の膜に対する直接作用例えばCa電流に対する作用などを詳細に検討する必要がある。現在この点に注目して研究を進めているところである。