著者
辻 繁勝 大河内 英作 澤田 均
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1986

Jimpyマウスは中枢神経系に著しいミエリン膜形成不全を発現するがCNS中の成熟オリゴデンドログリアが極端に少ない事および発症期に対応してミクログリア或いはマクロファージの数が著しく増加している事が認められている。我々は発病期のJimpyマウス中枢神経系に起こる種々のプロテアーゼ活性の変動を探る事に依って、この疾患の病因を追求しようと考えて実験を行い以下の結果を得た。1.トリプシン用基質であるBoc-Phe-Ser-Arg-MCAを基質として酸性(pH6.8)プロテアーゼ活性を脳ホモジネートの各細胞分画に就いて測定したところ発症期のJimpyマウス脳のミトコンドリア分画中では対照マウスに比較して有意に活性上昇している事が認められた。然し細胞質画分中の活性には差異は見られなかった。2.キモトリプシン用基質のSuC-Leu-Leu-Val-Tyr-MCAを基質とする中性(pH7.4)プロテアーゼ活性もJimpyマウス脳中ミトコンドリア画分で有意な増加を示した。この活性を更にミエリン膜画分に就いて測定したところ【Ca^(++)】-非依存性の中性プロテアーゼ活性と【Ca^(++)】添加によって活性が現われる【Ca^(++)】-依存性中性プロテアーゼ活性が存在する事が認められいずれもJimpyマウス脳中で、対照マウスに比較して有意に増加している事が確かめられた。3.【Ca^(++)】-非依存性プロテアーゼ活性には中性域の他に酸性域(pH5.5)にも活性のピークが在る事が判った。4.【Ca^(++)】-依存性中性プロテアーゼに就いて種々のインヒビターに対する感受性を検討したところ、EDTA,E-64,Leupeptin,Antipainなどによって強く阻害される事が判った。従って、この酵素はいわゆるCANP酵素に極めて類似した性質を有する事が推定される。以上の結果からJimpyマウス脳では発症期に対応してミエリン膜自体の自己破壊傾向が高進している事が推測された。