著者
寺本 英 日高 敏隆 河合 雅雄 川那部 浩哉 伊藤 嘉昭 松田 博嗣
出版者
京都大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1986

昭和58〜60年度の3年間におよぶ本特定研究の研究成果は下に述べるとおりであるが、本年度はそれらの研究成果をもとに国際シンポジウム「生物の適応戦略と社会構造」が計画され、この分野で活躍する外国の専門研究者17名の参加を得て実施された。本シンポジウムはいろいろな動物群あるいは数理モデル等の各分野の専門家が一同に会して動物の社会構造や社会行動についての諸問題を議論したユニークなものであり、本特定研究の研究成果に国際的な評価を与えるものとなった。シンポジウムの内容は特定研究の研究成果を含め英文報告書として取りまとめられた。また、それとは別に「生物の社会構造」と題する和文の啓蒙書も出版されている。3年間の本特定研究の研究成果は次のとおりである。昆虫における真社会性の進化、昆虫および甲殻類の交尾戦略・繁殖戦略の研究では、野外調査を主体に、特に南西諸島での本格的な調査とともにいくつかの事実の発見があり繁殖戦略・社会構造の理論の発展を得た。脊椎動物では魚類,鳥類,哺乳類を中心に調査研究が組織的に遂行され、交尾・育児・採餌行動と社会構造の詳細な比較検討が行なわれた。霊長類についてはニホンザルの調査を中心に、新しい調査方法によって採餌戦略・繁殖戦略によるサル社会の分析がなされ、個体群維持機構に関する事実が見い出された。ヒトに関する研究は旧来の伝統的風習や制度の残る沖縄や東北の僻地社会で重点的な調査が行なわれ貴重な資料が集収された。またそれに基づく社会構造と生存戦略の分析をとおしてヒト社会の特徴が抽出された。これらの広い研究対象で明らかにされてきた種々の動物行動の適応戦略的視点からみた統一的理論および社会構造形成モデル理論の探求が個体群動態論と適応戦略論の融合した理論として世界に先がけて精力的に行なわれた。
著者
青木 清
出版者
上智大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1987

魚類の中枢神経系は, 他の脊椎動物と比較して単純で神経生理学的な面からの解析に適していると考えられるところから, 日本産ウグイとメダカを用いて視覚性眼振運動(Optokinetic nystagmus:OKN)を制御する中枢神経機構について, 電気生理学的, 行動生理学的に解析した.1.自発性眼球運動と, 白黒の縦縞模様のスクリーンの回転によって誘発される2種類のOKNにおける, ウグイの動眼神経核内での単一ニューロン活動を記録して, その活動様式を調べた. 白黒の縦縞のスクリーンを, 時計方向に回転させた時反応した41個のニューロンは, 水平面上の眼球運動をおこすとともに, 3つの活動様式を示した. その三つの様式は, (1)魚の鼻側方向の急速眼球運動時に高頻度発射するタイプ, (2)(1)とは反応タイブが似てはいるが, 急速眼球運動時に限って特異的に高頻度を示すバーストタイプ, (3)通常は眼球の位置に関係のないある一定の頻度で発射していて, 急速眼球運動の間だけ活動が休止するボーズタイプである. これら(1)(2)(3)のニューロンでは, サッケード(自発性眼球運動, における急速運動)と視運動性眼振の急速相との間には, ニューロン活動に違いが見られなかった.2.OKNに直接関与する運動系の神経系を明らかにする為に, ウグイの脳の視床-前視蓋領域に局所的電気刺激を与えて, 視覚からの入力のある時と同じOKNを発現させ, その機能的役割について調べた. 両側の視床-前視蓋領域のうち右側領域を電気刺激すると常に引き起される眼振は時計回転方向のものであり, 左側領域では反時計回転方向となった. 視床-前視蓋領域の部位では, 終脳核群と互いに連絡があり対象同定に関与している.3.野生型ヒメダカの孵化直後から成魚までの視運動反応の発達を調べ, 発達に変化のみられる日令に従って中枢神経系の発達を電気生理学的に解析して制御機能を明らかにした.
著者
小西 昭
出版者
京都大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

運動ニューロンの変性機序を解明するために、その変性疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)で選択的に病変を免れるオヌフ核の入力線維の特異性を標識法により検索した。1.ネコの脳室内にコルヒチンを投与後、灌流固定し、脊髄の切片を作製して各種神経ペプチドに対する免疫活性をABC法で調べた2.下部腰髄と上部仙髄前角では、オヌフ核に、エンケファリン(ENK)陽性終末の密な分布を認めた。ENK陽性ニューロンは、後角とオヌフ核レベルの中心管周辺領域(第十層)に存在した。3.電顕でオヌフ核内のENK陽性終末を観察した結果、1)、多形性シナプス小胞を含み樹状突起と対称性シナプス結合をする終末70-80%、2)、球形シナプス小胞を含み樹状突起と非対称性シナプス結合する終末20-30%、3)、扁平シナプス小胞を含む終末0%、4)、クレストシナプスを形成する終末は約1%であった。4.オヌフ核へのENK陽性終末の起始ニューロンを同定するために、上部腰髄または下部仙髄の半切、後角の破壞実験を行ないENK免疫反応を調べたが、オヌフ核のENK陽性終末は減少しなかった。5.第十層にWGA-HRPを注入し、順行性に標識された終末の仙髄前角での分布を調べると、ENK陽性終末の分布と酷似していた。上記の実験結果から、オヌフ核への主要な入力線維終末はENK免疫活性を有し、その起始ニューロンは主に第十層に存在することが判明した。第十層には陰部神経に含まれる求心性終末が終止しており、第十層のENK陽性ニューロンはオヌフ核ニューロンを密に支配する。このような脊髄内神経回路は腰・仙髄の他の運動神経核では見られなかった。したがって、オヌフ核へのENK陽性脊髄内入力線維の存在が、ALSで他の運動核の変性にもかかわらず、オヌフ核が選択的に保存される機構の一因をなす可能性が高い。
著者
今井 正治
出版者
豊橋技術科学大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

今年度は、ゲーム木探索の並列化に関する研究を中心に行った。その結果、次のような成果が得られた。チェス、将棋、囲碁等の完全情報2人零和ゲームはminimaxゲーム木で表現され、ゲーム木を解くことで両者が最適な手を選んだ場合の結果を知ることができる。この目的のためにα-β法、SSS*法などの探索法が提案されている。これらの探索法を用いても、ゲーム木探索に要する計算量は、ゲーム木の高さに応じて急速に増加することは避けられない。そこで、複数の処理装置を持つ並列計算機を用いることにより、探索時間を減少させる方法が考えられる。本研究では、それらをm台の処理装置を持つ並列計算機上で実行することを考え、並列計算機向きの5種類の並列探索法を提案した。また、これらの探索法の計算時間が処理装置の台数mとともにどのように変化するかを理論的に調べた。その結果、1台の処理装置の場合に対する速度向上比がmより大(加速異常)になり得ること、および1より小(減速異常)になり得ることが知られた。また、本論文で考察した5種類の探索法では減速異常は生じないことを証明した。次に、探索法の全般的な挙動をシミュレーション実験によって評価した。その結果、処理装置の台数mの増加に伴い、計算時間が常に減少することは確認できたが、速度向上比はmよりかなり小さくなることも明らかになった。しかし、探索法によって、速度向上比にかなり変動がみられるので、並列化により適した探索法を工夫することで、速度向上比をさらに改善し得る可能性がある。本研究で試みた探索法の中では、有資格探索が探索時間の大きさと速度向上比の両方の観点から、他に比べ良い結果を与えることが知られた。
著者
大西 俊一
出版者
京都大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

受容体を仲介するエンドサイトーシスにおいて、エンドソーム内での酸性条件下でのプロセシングが重要である。我々はインフルエンザウイルスの細胞内侵入において、エンドソームの酸性条件下での膜融合が、そのゲノムを細胞質に移すのに必須であることを明らかにしてきた。本研究では、エンベロープをもたないウイルスとしてアデノウイルスを取り上げ、細胞内侵入の機構をエンベロープをもつウイルスのそれと比較研究した。1.アデノウイルスによって引き起こされる高分子のエンドソームから細胞質への放出の増加FITCで蛍光標識したデキストランをアデノウイルスと共存させると、KB培養細胞に取り込まれたデキストランは、ウイルスなしの時に較べて2〜3倍に増加し、蛍光顕微鏡で調べるとデキストランは細胞質中に放出されていた。ウイルス感染後20分経ってからではこのような効果は著るしく減少していた。また酸性小胞のpHを上げるアンモニア等の弱塩基化合物を加えるとウイルスの効果は抑制された。2.ウイルス核酸の標的細胞内の輸送【^(32)P】で標識したアデノウイルスを用い、KB細胞の核分画への輸送を測定した。アンモニア等の弱塩基は、この輸送を部分的に阻害しウイルスに特異的なたん白質の合成も阻害した。以上のことから、エンベロープを持たないアデノウイルスでも酸性化したエンドソーム内でプロセシングがおこり、細胞質内への侵入がおこること、またその時に、一緒に取り込まれたデキストラン等の高分子も細胞質中へ放出されることが示された。またこのプロセシングがインフルエンザウイルスの時に比して弱い酸性条件下でもおこるので、アンモニア等の弱塩基の効果が弱いのであろう。
著者
井上 幸江
出版者
山口大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1987

シュードモナス属細菌より分離された, トルエンやキシレンの完全分解系を支配するTOLプラスミドについて, 発現調節機構を明らかにするために本研究を行なった.1.活性化因子XylRにより正の調節を受ける第1オペロンと調節遺伝子xylSのプロモーター領域を含むDNA断片をクローニングし, 逆転写酵素マッピング法により転写開始点を決定し, その周辺の塩基配列を決定した. その結果, 両プロモーターの構造は, 通常とは異なる大腸菌のシグマ因子NtrAをもつRNAポリメラーゼによって転写がおこるプロモーターと類似していることが示された.2.第1オペロンとxylSの発現を大腸菌のNtrA変異株を用いて測定した. その結果, 両遺伝子とも, 活性化にはNtrAが必要であることが明らかとなった.3.xylR遺伝子の全塩基配列を決定し, 一次構造を明らかにした. XylRのアミノ酸配列を窒素の利用や固定に働く遺伝子群の活性化因子NtrCやNifAの一次構造と比較した. その結果, これら3つの活性化因子のC末端側約200アミノ酸にわたって非常によく似た配列があり, お互いの相同性は約50%であった. この3つの調節蛋白に共通していることはNtrAをシグマ因子としてもつRNAポリメラーゼにより転写がおこる遺伝子群に対して正の調節因子として働くことである. このことから, 相同領域は, NtrA-RNAポリメラーゼと相互作用をもつことが示唆された.以上のことから, 分解系酵素誘導において各遺伝子が遂次発現されるときに, その発現調節に通常とは異なるシグマ因子が関与することが明らかとなった.XylR蛋白の分離精製は進行中である.
著者
富永 健一
出版者
東京大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

本プロジェクトの目的は、社会調査データに関するデータバンクを作成することによって、データの共同利用を促進することにある。この目的のために、昭和58年度および59年度において、日本における社会調査データの所在・形状・内容等についてのアンケート調査を実施し、その回答に基づいて社会調査データについてのデータベースを作成した。データベースはパーソナル・コンピューターにファイル化することで必要に応じた検索を可能にするとともに、情報の一部を冊子に編集してアンケート調査に回答した研究者の配布した。本年度の作業は、実際に磁気テープ化された社会調査データを収集し、コードブックを作成してデータの共同利用を可能にすると共に、研究メンバーによるそのデータの分析を行うことである。収集されたデータは、研究メンバーの専攻分野とデータの入手可能性に鑑み、社会階層に関する分野に限定されたが、日本(1955年,1965年,1975年),米国(1962年,1973年),英国(1972年),西独(1980年),ポーランド(1972年)と広く国際的に協力を得ることができた。これらのデータはすべて磁気テープ化されており、SPSSによる集計のための基本プログラムが作成され、東大計算機センターをはじめとする日本の主要な計算機センターでの利用が可能になった。またコードブックについては、日本は研究代表者である富永などによってすでに作成されていたが、諸外国のそれは英語ないし独語で書かれていて使いにくいので、邦訳した上で冊子にまとめ、広く日本の研究者にとって利用できるよう作業中である。以上の作業に基づいて、研究メンバーが各国のデータを分担し、時系列的な社会移動のトレンド分析ないし国際的な社会移動パターンの比較分析を行い、その結果を論文化した上で冊子にまとめることによって社会階層研究に貢献すると共に、データバンクの有効利用の可能性を示すべく作業中である。
著者
勝見 允行 山根 久和 近内 誠登 湯田 英二 佐野 浩 倉石 晉
出版者
国際基督教大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1987

矮性問題:山根はインゲンの矮性(マスターピース)及びキュウリの矮性(スペースマスター)とそれぞれの高性種との間で内生GA量に差がないことをみつけた. インゲンではGA感受性の低いことが, キュウリでは加齢の早いことが矮性の原因であると推定された. 倉石はオオムギ幼葉鞘でのオーキシン合成はL-Tryからラセマーゼ・D-Tryアミノトランスフェラーゼの反応経路で行われると推定し, 矮性uguは後者の活性か低いためオーキシン生産が少ないという知見を得た. 勝見はGA感受性, 高GA生産性矮性トウモロコシD_8の中胚軸の細胞膜微小管の配向を顕微蛍光抗体法で観察し, 表皮細胞では高性株との間に配向パターンの差は見られないこと, しかしD_8の皮層では, 細胞伸長軸に対して直角配向をする微小管をもつ細胞が, 高性株に比べて狭い区域に限られていることみつけた. この結果はD_8がGAの受容体に関する突然変異だとする仮説と矛盾しない. 佐野は5-アザシチジン(AzaC)処理によって矮性化が誘導されること, F1でも矮性形質か残ることから, AzaC誘導の形態変化は遺伝することを示した. AzaCはシトシンのメチル化を抑えていることも確かめられた. この結果は, 矮性株のGNAはメチル化が低いという前年度の結果を支持するものである.生殖生長:湯田はビワ果実の無種子化をGA3を主体とする処理により成功した. より効果的な処理のためにはビワ固有のGAを使うことが望ましいと考え, ビワ幼果から抽出を行ない, 3つの新GAを発見した. ビワの生理活性GAはGA_<34>と推定される. 近内はブラシノステロイドによる作物の子実の増収を検討した. 開花初期における処理は, コムギ, ナタネ, ダイズで増収効果があった. またトウモロコシの花粉の発芽率も高まった. 桂はサトイモの地上部からGA_<24>を単離同定した. 花芽誘導に関与するGAを検討中である.
著者
野々村 禎昭 高井 義美 清水 孝雄 柴田 宣彦 小林 良二 尾西 裕文
出版者
東京大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1986

血管平滑筋は内皮細胞との関連では病変時特異的増殖, 脱分化を行い, いわゆる動脈硬化性変化をもたらす. この際の形態変化等は詳しく調べられているが, 生化学, とくに収縮蛋白質レベル, 及び分子生物学的レベルの研究は遅れている. 本研究班はその弱点をおぎない, 新らしい展開をはかる為に我国の平滑筋生化学者を結集した.本年は平滑筋のミオシンの構造については尾西が中心になり, 公募班員の岡本と共に一次構造と機能の関連について, ATP結合位等を明らかにさせた. 下等動物平滑筋のCatch機構については八木がミオシン重鎖のリン酸化でかなり明らかになった. 一方細いフィラメント側の調節機序に影響した因子によってラッチ機構が生じるが, この説明に野々村は大動脈からとったゲルゾリンファミリーが働く可能性を示し, その進んだ精製で86K, 84K, 45Kダルトン蛋白質が存在することを明らかにした. 一方, 丸山はこの45Kが84Kの中心分解物である可能性を示し, その精製を行った. 柴田は血管においてカルデスモン様蛋白質の存在を明らかにし, 祖父江はカラデスモンに2種類あり, 非筋細胞, 未分化型のものと筋, 分化型の違いを明らかにした. 小林は平滑筋膜よりカルパクチンをとり, 山本はCa-ATPアーゼをとって膜でのCa調節への足がかりを求めた. 高井は血管培養細胞のC-キナーゼ存在様式が成長因子との関係から異ることを示し, 清水はロイコトリエン連関酵素系の精製とその機能への結びつきを示した. 野島はCM(カルモジュリン)遺伝子クローニングをcDNAクローニングから進め, 高血圧との関係を追究している.本年は班員全ての研究が具体化し, すでに病態との関係へと入ってきた班員もあり, 来年度に向けての一層の具体化が期待される.
著者
江守 一郎
出版者
成蹊大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

人身傷害を伴う交通事故は、一般の犯罪と同様、業務上過失傷害または致死事件として捜査が開始され、あるものはその刑事責任を問われて送検され、あるものは正式裁判に持ち込まれる。刑事事件と併行して多くは民事訴訟が起こされ、刑事、民事とも高等裁判所に控訴され、上告されて最高裁判所まで持ち込まれるものもあるから、それにかかる国家的経費は言うに及ばず、関係者の時間的損失は莫大なものである。本年度は米国を中心とした事故調査を行い、交通事故の抑止と後処理がどのように行われているかがある程度明らかになった。米国では自動車事故は人身事故であっても、関係者は刑事責任を問われない。事例研究により明らかになったことは、事故直後現場に急行する警官の主たる任務は、負傷者の搬送と、事故車を移動することにより、できるだけ早く交通渋滞を解消することにある。これは国民の時間的損失を総合的に考えれば当然のことであろうが、その反面、その事故がどのようにして生じたかを明らかにするための証拠保全に対する努力は全く払われていない。したがって、我国に比べると事故再現ははるかに困難で、防止対策を事故再現によって求めることは不可能に近い。その点、我国は人身事故が刑事事件の対象となるため、証拠保全はある程度十分になされ、具体的安全対策を見出すにはむしろ有利な体制にあると言えよう。以上のように米国では、事故から得られる資料が少ない反面、予防に関する研究は盛んである。交通事故を刑事事件のひとつとして取り扱う法体系は、まだモータリゼーションが定着していない時代に確立されたものであって、本研究により、その体系を基本的に考え直さなければならない時期にきていることが浮きぼりにされた。どのようなシステムに改正すべきかは、今後の研究に俟たなければならない。
著者
辻 繁勝 大河内 英作 澤田 均
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1986

Jimpyマウスは中枢神経系に著しいミエリン膜形成不全を発現するがCNS中の成熟オリゴデンドログリアが極端に少ない事および発症期に対応してミクログリア或いはマクロファージの数が著しく増加している事が認められている。我々は発病期のJimpyマウス中枢神経系に起こる種々のプロテアーゼ活性の変動を探る事に依って、この疾患の病因を追求しようと考えて実験を行い以下の結果を得た。1.トリプシン用基質であるBoc-Phe-Ser-Arg-MCAを基質として酸性(pH6.8)プロテアーゼ活性を脳ホモジネートの各細胞分画に就いて測定したところ発症期のJimpyマウス脳のミトコンドリア分画中では対照マウスに比較して有意に活性上昇している事が認められた。然し細胞質画分中の活性には差異は見られなかった。2.キモトリプシン用基質のSuC-Leu-Leu-Val-Tyr-MCAを基質とする中性(pH7.4)プロテアーゼ活性もJimpyマウス脳中ミトコンドリア画分で有意な増加を示した。この活性を更にミエリン膜画分に就いて測定したところ【Ca^(++)】-非依存性の中性プロテアーゼ活性と【Ca^(++)】添加によって活性が現われる【Ca^(++)】-依存性中性プロテアーゼ活性が存在する事が認められいずれもJimpyマウス脳中で、対照マウスに比較して有意に増加している事が確かめられた。3.【Ca^(++)】-非依存性プロテアーゼ活性には中性域の他に酸性域(pH5.5)にも活性のピークが在る事が判った。4.【Ca^(++)】-依存性中性プロテアーゼに就いて種々のインヒビターに対する感受性を検討したところ、EDTA,E-64,Leupeptin,Antipainなどによって強く阻害される事が判った。従って、この酵素はいわゆるCANP酵素に極めて類似した性質を有する事が推定される。以上の結果からJimpyマウス脳では発症期に対応してミエリン膜自体の自己破壊傾向が高進している事が推測された。
著者
田口 寛
出版者
三重大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

先ずトリゴネリンの生合成について検討した。その結果、コーヒー植物体各部位における含量は、生育の段階にかかわらず、トリゴネリンが1mg/gのオーダーであり、ニコチン酸はその千分の1の値であった。また、トリゴネリン合成酵素活性の分布を調べたところ、非常に高い活性が葉に検出され、以下未熟の種子、枝の順であった。さらに、本酵素の精製を試みたが、酸化防止とポリフェノールの除去を完全にしないと活性な酵素は抽出できなかった。酵素の性質を要約すると、基質はニコチン酸とS-アデノシルメチオニンであり、反応の最適pHは7で、重金属イオンによって阻害され、ニコチン酸に対するKm値は0.58mMと計算された。次に【N^1】-メチルニコチンアミドについて検討を加えた。一般的な食品105種類について含量を測定した結果、その含量の多いものは次のようであった(食品可食部100g当りのmg数):干しわかめ(3.19),茶の葉(3.04),ロースハム(2.83),砂ギモ(2.42),しょうが(1.63),しいたけ(1.32),うに(1.15),こうなご(1.14),糸引納豆(1.09),しゃこ(0.88),丸干し(0.87),わかさぎ(0.86),ほたてがい(0.85)。次に、試薬の【N^1】-メチルニコチンアミド(10mg)を小試験管に入れ、種々の温度のオイルバス中で5分間加熱して、ビタミンへの変換を調べてみたところ、240℃以上の高温で変換し、最大変換率は約70%で、生成物はニコチンアミドであった。そこで、実際の食品の調理・加工によっても【N^1】-メチルニコチンアミドなどがビタミンに変換するかどうかを調べるため、この目的に合った食品数種類を選び、焼くのと油炊めとを行った後に、ニコチン酸・ニコチンアミドのマイクロバイオアッセイをした結果、単位重量当りで比較して、生のときより明らかにビタミン効力は増加していた。以上のように、食品中には潜在性ニコチン酸・ニコチンアミドが存在しており、高温にするほどビタミンの量が増加した。
著者
伊藤 泰男 酒井 陽一 田畑 米穂
出版者
東京大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1988

CS_2は反磁性ミュオンの強度が0.2と小さく、他はスピン緩和している特異な物質である。我々はこれが放射線化学的な過程と関係があると予想し一連の研究を行った。Mu置換フリーラジカルは35KGという高い磁場を用いるスピン共鳴によっても、高磁場MSRによっても、純CS_2やCS_2濃度の高い溶液中ではみつからなかった。しかしCS_2濃度の小さな溶液中ではラジカルとみられる成分が見出された。その温度依存性から活性化エネルギーの小さな過程である、反磁性ミュオンがゆっくりと増加してくる様子も観測された。以上を統一的に理解する為のモデルとして、MuCS_2の形のラジカルが実際に生成するが、CS_2濃度が大きいとクラスタを形成してhfcの分布を生じて観測にかからなくなること、更にクラスタリングが進むとhfcが小さくなって実効的に反磁性ミュオンが成長してくるようにみえるというプロセスを仮定した。これを放射線化学の側から調べるため、同じ系についてパルスラジオリシス実験を行い、HCS_2に同定される吸収を見出し、MuCS_2と同じように高濃度では観測されなくなるという類似の現象も見出した。ミュオン化学と放射線化学では同一のプロセスが起っているようである。別の実験では金属錯体のMSR、縦緩和、スピン共鳴実験をアセチルアセトン錯体について行い、中心金属がV、Cr、Mnのような常磁性のときは反磁性ミュオンの割合が1に近く、Zn、Alのような典型元素では〜0.2であるという興味ある知見を得た。また縦緩和の実験から、ミュオンが中心金属から〜2〓離れたサイトを占めているという知見も得た。
著者
丸茂 文幸
出版者
東京工業大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1985

岩石学上重要な系である【F_0】(クドカンラン石)-Di(透輝石)-An(灰長石)-Si【O_2】系に少量のTi、Cr等岩石中にも少量含まれている遷移金属元素を加えた時に生ずる相平衡関係の変化及びこれ等の微量成分元素の構造化学的役割りについての正確な知見を得ることはマグマの発生あるいはその後の進化を知る上で極めて重要である。本年度はまず、上記の部分系である【F_0】-An-Di系に【Cr_2】【O_3】を加えて、液相面上での相平衡関係を調べた。Cr量が増加するとスピネルが晶出する領域が広がり【Cr_2】【O_3】約0.2wt%のとき、透輝石、灰長石、スピネル及び液が共存する不変点を生ずる。【Cr_2】【O_3】量が0.2wt%以下のときは灰長石とカンラン石が共存し得るが、0.2wt%以上になると、両者は共存し得ない。また【F_0】-An-Si【O_2】系に【Cr_2】【O_3】を加えた場合もスピネルの初晶領域が著しく拡大し、灰長石の領域が極端に減少する。その結果、従来は熱力学的に越えることができないと考えられていた組成中の壁を、0.2wt%程度の【Cr_2】【O_3】が存在する場合には越えることが可能となることが明らかにされた。この結果はマグマの分化を考える上で重要である。珪酸塩融体の構造と晶出する結晶の関係を明らかにする目的で、An-Di系及びこれに【Cr_2】【O_3】を加えた系の熔融体を急冷して作成したガラスの構造をX線回折法により調べた。【An_(50)】【Di_(50)】組成のガラス中ではSi及びAlは総てO原子による四面体配位をとるが、【Cr_2】【O_3】を5wt%加えたガラスでは、可成りの割合のAlが6配位をとるという結果を得た。スピネル中でAlが6配位であることと考え合せて興味深い。また熔融法によるガラスの構造と比較する目的で、衝撃圧縮による灰長石ガラスの構造を調べた。衝撃圧縮ガラスにおいてもSi及びAlは熔融ガラス中と同様、四面体配位をもつが、Caの配位の不規則性が増している。上記の他、β-【Mg_2】Si【O_4】の構造、テクト珪酸塩中のSi及びAlの配列に関する研究も行った。
著者
樋口 泰一
出版者
大阪市立大学
雑誌
特定研究
巻号頁・発行日
1987

1.人工細胞, 人工分子組織体の集積反応場を構成する機能性素子の構造化学的研究を行った. 集積体の主体(第1素子)はシクロデキストリン(CD)類であり, 個別の第1, 2素子が持たなかった新たな機能と構造を研究した. また, 有機物質に対する反応場としてのCDモデル構造や, 生体機能と関連の深い幾つかのステロイド系化合物の異性体群につき, その集積様式に及ぼす水酸基〜水素結合の効果をしらべた.2.機能上向上のため修飾されたβ-シクロデキストリン(β-CD)類の結晶場ならびに相互作用:β+CDの6位の水酸基1〜2個を数種の置換基(-SC(CH_3)_3,-SCH_2C(CH_3)_3,-SC_6H_5,+S(0)C_6H_5で置換した6つの誘導体の結晶構造から, それらの結晶場とそこにおけるホスト部(CD環), ゲスト部(置換基)間の相互作用を詳細に比較検討し, 置換(修飾)基のもたらす効果を明らかにした.3.2種の大環状素子の集積(2重マクロ環)結晶場の構造とカチオン(Li^+,K^+,Na^+,Rb^+)の捕捉機能:結晶学的構造研究から, γ-CD・12-クラウンー4(CE)から成る集積体は無限に続く大きなカラム構造を作っており, その中で2重環構造を形成しているγ-CDとCEとの相互作用には3通りある. その内の1つ-2けのCEが隣接-の集積場にLi^+,Na^+,K^+などが取り込まれる. Li^+やNa^+とCEとの相互作用は類似しているがK^+は違った相互作用を示した. Rb^+は取り込まれなかった. カチオンを捕捉する場合にはCEのコンフォメーションは変形して対応することを明らかにした.4.胆汁酸に含まれるジヒドロキシコール酸の4つの異性体は夫々違った水素結合を形成し, それに伴って分子の集積様式, 反応場の構造に差異が生じる. ミセルや液晶形成との関係を検討す.