著者
近藤 正基
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

ここでは、平成19年度に掲載が決まった論文について、その概要と意義について論じ、研究実績の報告としたい。比較政治経済学、例えば資本主義の多様性論やコーポラテイズム論においては、ドイツは非自由主義経済の代表国と目されてきた。ドイツ経済と自由主義モデルとを分かつ点として、労使関係の特徴が挙げられる。つまり、労使団体による集権的な労働条件決定システムのない自由主義経済(アングロ・サクソン諸国)に対し、ドイツでは産業レベルを中心に労使交渉が実施され、そこで実質的労働条件や労働市場政策が決定されるのである。近年、ドイツ経済は「自由主義モデル化」の道を歩んでいるのか、またはその特徴は「持続」しているのかで、議論が対立している。第二論文「現代ドイツにおける労使関係の変容-統一以降の協約自治システムの展開に関する政治経済学的考察」(1)(2)(3)では、1990年から2006年までのドイツにおける労使関係と労働市場政策の変遷を分析し、この両者の仮説を検証した。それにより、強い拘束力を梃子にして、産業レベルの労使団体が広範な労働者の実質的労働条件について決定し、同時に産業平和を達成してきた労働条件決定システム、すなわち協約自治システムが、統一以降、空洞化や権限縮小といった変化を経験し、機能不全を呈していることを示した。その結果、「自由主義化」仮説が妥当であるとの結果を導出した。分析にあたっては、労使団体を中心的アクターとして位置づけるとともに、連邦政府、連邦雇用庁、連邦労働裁判所といったアクターも視野に入れた。