著者
平塚 和之 川崎 努 進士 秀明 川崎 努 平塚 和之
出版者
横浜国立大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

耐病性シグナル伝達経路の解明を目的として、病害応答情報伝達系の主要因子の一つとしてイネの過敏感細胞死の制御に関与するGタンパク質の役割を初めて明らかにし、それらの性状に関する重要な知見を得た。さらに、形質転換植物・細胞による発光レポーター遺伝子を指標とした病害応答遺伝子発現モニタリングシステムを確立し、抵抗性誘導剤の評価スクリーニングや、病害応答変異体選抜等に応用可能な実験系を構築した。また、病害抵抗性と密接に関連すると想定されるDNA傷害応答性発現遺伝子の発現制御について詳しく解析し、誘導抵抗性遺伝子発現との関連を明らかにした。興味深い結果としては、銅イオンによるこれら3種類の病害応答性プロモーターの応答性に基づき、環境調和型農薬としての銅剤の作用機作に関する有意義な知見が得られた。さらに、耐病性遺伝子発現の主要転写制御因子であるNPR1の作用機作や、耐病性遺伝子発現と関連する組織特異性を制御する新規GRASタンパク質が転写制御因子として機能することを初めて明らかにした。一方、エリシター応答性プロモーターと関連転写制御因子に関する研究を重点的に実施し、転写制御因子であるタバコのNtWRKY1,2,4がERF3遺伝子プロモーターのW-box配列と相互作用することを示し、一過的発現解析によりNtWRKY1,2,4がW-boxを介して転写活性化因子として機能することを明らかにした。NtWRKY4遺伝子は、低レベルで恒常的に発現しており、傷害によって発現が変化しないが、NtWRKY1と2は傷害処理によって迅速な発現誘導を示した。また、ERF3遺伝子の発現はERF3によって抑制されることも示唆された。高等植物の遺伝子発現制御系として関連因子群が詳細に明らかにされている例は希で、これらは耐病性シグナル伝達の末端として重要な転写制御に関する知見として最も詳細な研究として高い評価が得られている。