著者
石原 陽子 郡 和宏 永井 厚志
出版者
東京女子医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

コラーゲン特異的分子シャペロンHSP47の肺の気腫化・線維化への関与について、ブレオマイシン肺臓炎、長期喫煙、TNF-α過剰発現肺線維症マウスを用いて下記の点を検討した。1.肺の気腫化と線維化病巣の並存においてHSP47は関与しているか。肺線維化と気腫化並存モデルでは、HSP47の明確な関与を示唆する明らかな所見を認めなかった。その原因として、長期喫煙暴露でのマウス肺の気腫化と線維化が軽度でありHSP47遺伝子発現へ影響するほどの肺傷害が誘導されなかった可能性があり、短期間で肺の気腫化と線維化が発現する実験モデルを作成し、さらに検討する必要がある。肺線維化に関しては、肺線維症モデル実験から、HSP47が肺線維化に関与している可能性を示唆する所見が得られた。2.HSP47遺伝子発現量と肺線維化・気腫化の発症・進展メカニズムとの関連性。喫煙モデルでは、肺気腫発症へのHSP47の関与を示唆する所見は得られなかった。可逆的肺線維症では、初期に一過性のHSP47遺伝子発現を認め、非可逆的線維症モデルでは発症よりもむしろ進展過程でHSP47遺伝子発現抑制が観察された。この結果は、非可逆的及び可逆的肺線維化の発症及び進展へのHSP47の関与を示唆する所見と考えられた。3.HSP47が可逆性及び不可逆性肺線維化の規定因子の一つとなりえるか。可逆性と不可逆性肺線維化モデルの成績を比較した場合、可逆性肺線維症では、HSP47遺伝子発現量の増加は一過性であり、不可逆性肺線維症では遺伝子発現の抑制が見られたことから、HSP47はその規定因子の一つとなりえる可能性が見いだされた。4.HSP-47の分子レベルでの発現量を調節することにより、肺マトリックス及び正常肺構築の保持は可能か。非可逆性肺線維症モデルでは、肺換気パターン、肺HOP、病理所見で肺線維化の著明な進展が認められた時期にHSP47遺伝子発現が抑制され、その状態は1年後まで保持された。この結果は、HSP47遺伝子制御によって肺マトリックス及び正常な肺構築への修復は不可能であるが、その進展を抑制することによって代償性肺呼吸機能を保持できる程度に制御できる可能性が示唆された。5.HSP47の調節による遺伝子治療の可能性。上述した実験成績から、HSP47遺伝子発現量の制御によって、ヒトにおいても肺線維化の進展抑制が出来る可能性が見いだされた。