著者
郭 雲蔚
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.97-113, 2017-06-01 (Released:2021-06-04)
参考文献数
25

本稿の目的は職場における非正規労働者の割合が同じところで働く正規労働者の雇用安定満足度にどのような影響を及ぼすかを解明することである。 非正規労働者は欧米のみならず、日本においても特に一九八〇年代以降、絶えず増加している。非正規労働者の増加は季節的に変化する労働需要を満足してきたものの、非正規労働者自身に不安定・低賃金・社会保障の不備といった一連のリスクをもたらしている。しかし、同じ職場で働く正規労働者の視点からどのように非正規労働者の存在をとらえるかという問題が日本における先行研究では十分に検討されてこなかった。果たして正規労働者は非正規労働者の存在を自らの仕事の地位の脅威として認知し、雇用安定満足度を低く見積もる傾向があるだろうか。こうした傾向に関して異なる従業形態の非正規労働者の間に異同が存在するのか。こうした問いを解明するために、本稿では「多様な就業形態に関する実態調査」のデータを用い、非正規雇用をパート・有期社員・嘱託社員といった三つの類型に区分し、それぞれ正規労働者の雇用安定満度に及ぼす影響について計量分析した。 分析の結果から、非正規労働者の三類型ごとに正規労働者の雇用安定満足度に与える影響が大幅に異なっていることが明らかになった。第一に、パートのいる職場で働く女性の正規労働者は雇用に関する不安が高い傾向が示された。第二に、有期社員の多い職場で働く男性の正規労働者は雇用に関する不安が高いという傾向が観察された。第三に、嘱託労働者の雇用は、男女ともに雇用安定満足度の低下を生じさせないことが示された。