- 著者
-
鄭 玉姫
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2009年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.149, 2009 (Released:2009-06-22)
1.はじめに
2007年現在,韓国の農林水産部に登録されている農漁村民泊事業*者は,14,805人である.従来,民泊経営のための行政的な手続きは不要であった.それが2005年農漁村整備法の改定により,民泊経営をするためには該当行政当局に民泊事業者指定をうけるようになった.これは日本の民泊が旅館業法の中の簡易宿所営業に登録されていることとは異なる.
日本の民宿地域は,海浜型民宿地域と山地型民宿地域に分けられる(石井 1970).この類型は韓国にも適用できるが,海浜型民泊地域の方が山地型民泊地域より多い.その反面,スキー場の建設は集落のない山地空間で行われており,山地型民泊地域は少ない.つまり,韓国の主な民泊経営は海水浴場周辺地域にあり,海浜型民泊地域を成している.
本稿では,韓国南沿岸部にある南海郡尚州里を取り上げ,その民泊経営の展開と地域の変化をまとめる.
2.南海郡尚州面尚州里の民泊経営と地域変化
1)海水浴場の開場と民泊経営の開始
韓国慶尚南道の南海岸に属する南海郡には4つの海水浴場がある.そのうちもっとも海水浴客を集客しているのが尚州海水浴場である.島嶼である南海郡は,1973年南海大橋の竣工でさらに観光客が増えたが,来客数は1997年の96万人を最高にして,2000年を境に減っている.
尚州里の民泊経営は,1980年に入って海水浴客の増加によって発生した.当時,この地域には民泊が存在しなかったので,海水浴客は宿を求めて自ら農家を尋ねた.それで海水浴場近隣の尚州里では,他より民泊が早期に経営されており,中でも海水浴場と近距離の農家が民泊経営を始めた.その後,海水浴客の増加とともない民泊は全集落をはじめ近隣集落まで広まった.
2)接客業の増加と地域変化
尚州里では,1980年代から増加する海水浴客を対象に,食堂や喫茶店,旅館などの接客業が増えた.なかでも,1990年代に食堂と旅館,自動販売機の開業が多い.とくに食堂の開業は,海水浴時期である5月から7月までが多い.これは民泊で食事を提供しないことに要因がある.また,自動販売機の設置場所は大半が海水浴場の周辺である.
要するに,尚州里内では1990年代から海水浴客の増加に相まって,食堂,旅館などの接客業の営業が多くなった.
3.まとめと考察
尚州里における観光は,1970年代南海大橋の竣工と海水浴場の開場に大きく影響をうけ発展した.とくに民泊経営は,海水浴客の増加とムラの中に宿泊施設がない状況の下で,農家が民泊をはじめた.そして民泊経営は海水浴場の近隣農家から始まり,徐々に集落全体と近隣集落にも広まった.そして,海水浴客を対象に里内では食堂,旅館,自動販売機などの接客業が多く開業した.
尚州里では,海水浴客の増加に相まって民泊経営と接客業の開業が見られ,これらによって観光は重要な生業の一部となっている.
【注】* 農漁村整備法(2005)による民泊事業とは,農漁村地域に居住する住民が農漁家を利用し,利用客の便宜と農漁村所得増大を目的に宿泊・炊事施設などを提供する業としている.
【参考文献】
石井英也 1970. わが国における民宿地域形成についての予察的考察.地理学評論 43(10): 607-622.