- 著者
-
桐村 喬
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集 2009年度日本地理学会春季学術大会
- 巻号頁・発行日
- pp.221, 2009 (Released:2009-06-22)
I はじめに
東京大都市圏の中核をなす東京23区では,規制緩和などに伴い,1990年代後半以降,丸の内地区や六本木地区といった都心部において,超高層のオフィスビルの建設などの大規模再開発が進んだ.また,バブル経済崩壊以降の地価の下落に伴って,マンションの建設も盛んになったことで,都心部における人口が大きく増加するなど,「都心回帰」と総称される現象がみられるようになった(宮澤・阿部2005).
本研究の目的は,このような東京23区を対象とした社会地区分析を行なうことによって,現在の社会経済的な都市内部構造を解明することである.東京23区を対象とした同様の研究は,都市社会学や都市地理学の立場からなされてきた(高野1979; 倉沢・浅川2004).本研究では,これらの成果を受け継ぎつつ,直近の小地域統計に基づいた社会地区類型を示し,その空間的なパターンについて検討する.特に,資料の制約から,これまで日本ではあまり検討されてこなかった,都市内部における外国人居住の空間的パターンについて,東京都が独自に集計した国勢調査結果データを用いて若干の考察を加えたい.
II 分析手法とデータ
本研究で用いる小地域統計は,2005年の国勢調査結果と,2006年の事業所・企業統計調査結果であり,基本的には東京都が独自に集計・公開している町丁目別のデータを利用する.このデータでは,国籍別の外国人人口や,外国人のいる世帯数など,東京都独自の集計項目が存在しているが,職業大分類別の就業者数など集計されていない項目もあり,これらについては総務省統計局が公開しているデータを利用する.
これらのデータから,東京23区内の全町丁目別に,居住者に関する54変数と,事業所に関する44変数を作成し,分析データセットを作成する.この分析データセットに対して,各町丁目の類型化のために,自己組織化マップ(SOM)を適用する(桐村2007).SOMは,ニューラルネットワークの一種であり,適用するデータからのサンプリングを繰り返しながら学習することによって,元のデータの特徴を抽出するアルゴリズムである.このようなSOMは,多次元データの可視化や類型化などに利用され,地理的なデータへの適用も可能である.SOMを本研究の分析データセットに対して適用することで,居住者および事業所に関する各変数間の関係性を可視化するとともに,対象とした各町丁目の類型化が可能となる.
III SOMの適用と社会地区類型の分布
SOMを適用し,Ward法によって分類した結果,11類型が得られた(図1).類型の分布や特徴をみる限り,国籍別の外国人比率など,外国人に関する変数によって特に特徴づけられた類型はみられなかったが,都心商業地区ホワイト・グレーカラー類型は東南アジアを除く各国の外国人比率が高く,都心部に位置する繁華街の周辺部に分布する傾向がみられた.また,足立区などの北部に点在する高密度ブルーカラー類型は,東アジアや東南アジア系の外国人比率が高く,母子世帯比率や高齢単身世帯比率,完全失業者率が高いなど,社会経済的な弱者の多い地区であるといえる.他の9類型が示す空間的なパターンや,各変数相互間の関係など,より詳細な検討が必要であるが,紙幅の都合上省略する.
IV おわりに
本研究では,2000年代半ばの東京23区の社会経済的な属性の類型化を行なった.特に,外国人に関する変数を利用したことで,東京23区における外国人居住地の空間パターンについて検討できた.類型の分布をみる限りでは,従来から指摘されてきた,大規模オフィスやホワイトカラー層の居住する都心と,周辺に位置する東西のセクターといった基本的な都市構造に対して,外国人に関する変数が大きく寄与しているとは言い難い.しかしながら,国籍ごとに居住地は大きく異なり,他の変数との関係性について検討することによって,外国人居住の空間的パターンの実態が明らかになるものと考えられる.
参考文献
桐村 喬2007.小地域の地理的クラスタリング―外れ値処理と空間的スムージング―.GIS―理論と応用―15: 81-92.
倉沢 進・浅川達人2004『新編東京圏の社会地図1975-90』東京大学出版会.
高野岳彦1979.東京都区部における因子生態研究.東北地理31: 250-259.
宮澤 仁・阿部 隆2005.1990年代後半の東京都心部における人口回復と住民構成の変化―国勢調査小地域集計結果の分析から―.地理学評論78: 893-912.