著者
鄭 紹輝 川越 洋二
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.473-477, 1998-12-05
参考文献数
12
被引用文献数
2

北部九州における夏アズキの春播き栽培では, 登熟は夏の高温・多湿条件下で進行するため, 子実は小粒で, 種皮が厚くて吸水性が悪いなど, 北海道産に比較して品質が劣ることが知られている.本研究は北部九州におけるアズキ子実の品質改善を目的に, 北海道で育成された夏アズキ8品種を用いて従来の春播きと夏に播種期を変えて2ヵ年栽培し, 子実の品質関連諸形質および生育諸特性について調査した.その結果, 1993年では春播きに比較して夏播きの場合に, 百粒重の増大, 種皮率および確実率の減少がみられ, その程度は8月播きで顕著であった.そこで, 1995年では7月13日から約10日おきに5回の播種を行った結果, 百粒重および種皮率は7月21日以降の播種, 種皮色は7月31日以降の播種で優れ, いずれの形質も北海道産とほぼ同程度であった.確実率は概して晩播ほど低くなったが, 品種間差異や年度間の変動が大きかった.なお, 7月31日以降の播種では莢が一斉に成熟し, 葉がほとんど黄化して落ちるため収穫作業が行いやすく, 収量は7月31日と8月12日播種で高かった.以上のことから, 北部九州においては, 夏アズキを7月下旬から8月中旬にかけて播種した方がよいと考えられた.
著者
馬場 彰子 鄭 紹輝 松永 亮一 井上 眞理 古屋 忠彦 福山 正隆
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.4, pp.384-389, 2003-12-05
被引用文献数
2

西南暖地向けに育成されたダイズ新品種サチユタカの生育特性を明らかにするため,フクユタカと比較しその乾物生産特性について調査を行った.両品種を2001年7月9日および2002年7月4日に播種し,生育,乾物生産,収量および収量構成要素を測定した.その結果,サチユタカはフクユタカに比べて開花期,成熟期ともに早く栄養成長量は小さかったが,収量には有意な差はなかったため,粒茎比が高くなった.葉面積指数(LAI),個体群成長速度(CGR),地上部全重,茎重については開花期まではサチユタカの方が高かったが,開花期以降サチユタカではあまり増加がみられず,最大値はフクユタカのほうが高かった.なお,両品種の光合成速度,純同化率(NAR)には差異はみられなかった.一方,莢実重は,サチユタカでは増加開始時期は早いが成長速度には両品種間に差はみられなかった.茎重は成熟期に近づくにつれて減少した.さらに,茎中の非構造性炭水化物含有率は開花期においては両品種に差がなかったが,成熟期に近づくにつれて大きく低下し,その低下率はサチユタカで65%,フクユタカで40%であった.これらのことから茎中に蓄積された炭水化物が子実肥大期に莢実に再転流されたことが考えられた.以上の結果から,栄養成長量の小さいサチユタカがフクユタカに匹敵する収量を得られたのは,開花までの成長速度がやや高く,栄養成長の停止が早いため栄養成長と生殖成長の間の同化産物の競合が弱く,さらに茎中の非構造性炭水化物の再転流が多いことで同化産物の利用効率が高まったためであると考えられた.
著者
鄭 紹輝 綿部 隆太
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.520-524, 2000-12-05
被引用文献数
3

ダイズ20品種の無処理と老化処理種子(40℃, 相対湿度100%条件で6日放置後室内風乾)について, 20℃24時間浸水後の種子から溶出した糖(フルクトースとグルコース)の量および異なる土壌水分条件(土壌含水率:適湿区13%, 過湿区20%)における出芽率を測定し, 両者の関係を検討した.無処理種子からの糖の溶出量は種子1g当り0.4mg(もやし豆)から11.8mg(シロタエ)まで, 品種によってかなり異なったが, 老化処理種子ではほとんどの品種において増加し, 無処理種子より最高約5倍も多い糖を溶出した.種子からの糖溶出量は, 種子の大きさと有意な正の相関関係がみられ, 種子の老化処理の有無にかかわらず黄色品種で顕著に多かった.出芽率は無処理種子では土壌湿度条件の如何に関わらず良好であったが, 老化処理種子では適湿区で-部の品種, 過湿区で大多数の品種において明らかに低下した.さらに, 出芽率と種子からの糖溶出量の問には, 過湿区において有意な負の相関関係がみられ, 種子からの糖溶出は, 特に老化処理・過湿区で出芽に深く関わっていることが示唆された.なお, 本実験に供試した黒色の4品種においては, 老化処理種子からの糖溶出量が少なく, 過湿区における出芽率も他の品種より高く, 種子の活力が低下しにくい性質を持っているのではないかと考えられた.