著者
酒井 仙吉
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

2009年、牛乳中に存在し、自己分解で過酸化水素を発生する低分子物質を発見したことを明らかにした。従来から牛乳中には過酸化水素分解酵素(ラクトパーオキシダゼ)とサイオシアネートの存在が知られ、過酸化水素が存在すると強力な抗菌機構が生まれる(ラクトパーオキシダゼ/過酸化水素/サイオシアネート抗菌システム)。今回の発見は過酸化水素の供給があることになり、乳房炎発症を低めると考えられた。しかしながら程度の実態は不明で、証明するには多くの乳牛で調べる必要があった。本年度(1年目)、230頭の乳牛から920検体の分房乳を採取し、過酸化水素水発生能と電気伝導度の違いによる異常性の関係を調べた。その結果は、「過酸化水素産生能の低い乳牛から高い割合で異常乳が出現する」ことを明らかに出来た。前年に報告した「乳房炎は過酸化水素産生能の低い乳牛に多い」とした結論と一致した。両者の結果から「過酸化水素産生能は乳房炎抵抗性と関係する」と断定でき、研究上と産業上で貢献できる大きな前進が見られた。さらに内因性物質であることから副作用は考えられず、過酸化水素産生物質は乳房炎治療薬として極めて有用と考えられた。申請書に記載した目的、過酸化水素産生物質の同定と構造決定が大きな意義を持つことになった。そのため生成を開始した。最初にゲルろ過で粗精製を行い、次にイオン交換クロマトグラフで精製した。ほぼ単一な状態にしたが、本物質は酸素存在下で分解することで、その後の精製は困難を極めた。