著者
酒井 宣昭
出版者
The Tohoku Geographical Association
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.19-29, 2004
被引用文献数
1

地場産業の産地存続に必要な機能としては技術伝承, 原料および市場の確保があげられる。本研究では宮城県の鳴子, 遠刈田, 弥治郎こけし産地を例に, 近年の技術伝承形態, 原木の入手形態, 流通販売形態について検討し, その特徴を明らかにした。<br>技術伝承についてみると,「家」での技術伝承形態のみが一部の事業所において存続している。多くの事業所では経営難が続き, 子に他の職業を薦める傾向にある。原料の入手についてみると, 伝統的に使用してきた原木を現在も継続的に入手しているため, 特に原木の量の制限などに関する問題はみられない。しかし, 一部の事業所では経営難という状況から原木の購入資金が不足し, 入手量を制限せざるを得ない状況にある。製品は各事業所が伝統こけし, 創作こけし, 木地玩具を生産している。なかでも需要の多い伝統こけしの生産が中心である。流通販売形態についてみると, こけし産地には産地問屋があるものの, 産地問屋の取引先の需要減少に伴い, こけし産地の事業所との取引回数や量は少なくなっている。また, 小売店などへ卸す経路も縮小している。そのため, 各事業所での販路を開拓する必要があるが, 独自の経営戦略を持って安定した販路を確保している事業所は少ない。