著者
重原 孝臣
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

点状散乱体を持つ量子擬可積分系のスペクトル(エネルギー固有値および波動関数)の性質に関して、次のような知見が新たに得られた。1.点状散乱体を持つ量子擬可積分系では、場の理論等で最近話題になっている、量子異常や幾何学的位相(ベリ-の位相)が現れる。点状散乱体を持つ擬可積分系の量子力学は、数学的には関数解析の一分野である閉対称作用素の自己共役拡張理論に従って定式化されるが、その際不足空間の定義にスケールの選び方の任意性があり、その結果、系に質量スケールが導入される。このことが量子スペクトルに古典系では見られないエネルギー依存性をもたらす(量子異常)。また、散乱体を非摂動系の固有関数の節に置いた場合、その条件下で適当にパラメータ(散乱体の座標)を調節すると摂動固有関数と縮退が生じる。パラメータ空間において、この縮退点の回りを一回り回ると一般に波動関数の符号が反転する(幾何学的位相)。二次元系では縮退点はパラメータ空間内で孤立しているが、三次元系では縮退点は曲線群をなす。2.点状散乱体を持つ量子擬可積分系から得られた知見を、小さいが有限の大きさを持つ散乱体を持つ量子系に応用した結果、低エネルギー領域において散乱体は近似的に点状として振舞い、その影響は散乱体が弱引力の時に強く現れることを示した。また、量子系のユニタリー性を壊さずに散乱体の大きさを無限に小さくする極限操作の方法を示した。3.複数の点状散乱体を持つ量子擬可積分系のスペクトルの性質は各散乱体の結合強度で決まり、特に各散乱体は、結合強度で定まる特定のエネルギー領域に限りスペクトルに影響を与えることを示した。