著者
重村 憲徳
出版者
九州大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2006

本研究の目的は、マウスを用いて明らかにされた甘味感受特性と甘味受容体(Tlr2/Tlr3ヘテロ二量体)遺伝子多型との相関を"ヒト"において明らかにすることである。方法は、以下の過程で行った:(1)human Tlr2/Tlr3のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型を明らかにする。(2) 見いだされたアミノ酸変異をもったTlr2とTlr3(Tlr mutant)遺伝子発現コンストラクトを作成する。(3) 作成したものを様々な組み合わせでHEK293細胞に導入し、10種類の甘味物質(天然糖、人工甘味料、アミノ酸)に対する応答特性をCa^<2+>イメージング法により検索し、遺伝子多型性とその応答特性との関係について検討する。(1) について:ヒトTlr2/Tlr3のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型解析では、Tlr2に4カ所、Tlr3に2カ所のアミノ酸変異を伴う遺伝子変異が明らかになった。さらに、うま味物質(グルタミ酸、IMPなどアミノ酸や核酸)の受容体は、甘味受容体と共通のTlr3とTlr1のヘテロ二量体であることが報告されているため、Tlr1についても同様に多型解析を行った。この結果、5ケ所のアミノ酸変異を伴う遺伝子多型が明らかとなった。(2)と(3)について:HEK細胞にTlr2/Tlr3のmutantを発現させたCaイメージング解析では、Tlr2の1つのアミノ酸変異がミラクリン(Tlr2/Tlr3に結合し、酸味を甘味に変えるミラクルフルーツ由来のタンパク質)の効果と関連がある所見が得られた。また、うま味感受性と遺伝子多型性との相関解析では、Tlr1/Tlr3の3つのアミノ酸変異が複合的にうま味感受性と相関している可能性が示唆された。以上のことから、カロリーやタンパク質摂取と密接に関連するヒト甘味、うま味感受性の多様性は、味覚受容体の遺伝子多型性によりもたらされる可能性が強く示唆された。