著者
野々瀬 晃平
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

本年度では実際の現場観察やシミュレータを使ったより実現場に近い実験環境での行動観察データを用い、チーム協調におけるメタ認知の重要性を検討した。具体的には2006年、2007年に行われた北関東セクターを用いたシミュレータ実験および同様のセクターを用いた東京コントロールで行われた実現場の記録データを用い、対空席と調整席という二人一組で構成されるエンルート航空管制官のチーム認知モデルの構築を行った。まず、航空管制官同士の言語的、非言語的インタラクションを記録データより抽出し、それを相互信念に基づくチーム認知を用いた「意図の次元」(インタラクションの理由)とタスク分析に基づく「内容の次元」(インタラクションの内容)を組み合わせたコミュニケーション分析マトリクスにより分析した。これは、インタラクションが行われた空域状況や航空管制官の指示、理由等について管制官の資格を持つ協力者に確認しつつ行った。その結果、対空席と調整席ではその役割の都合上、協調時の主要なメタ認知のあり方が異なることが示唆された。対空席はレーダー画面の監視を行い、トラフィック状況や航空機の現在の指示状態など自身の認知過程に対するメタ認知を行い、また調整席に対し自身の認知状態の補完を求めるインタラクションが多く見られた。一方で、調整席は自身もトラフィック状況や航空機の現在の指示状態などを確認しつつも、対空席の行動を見ながらその認知状態を推測し、その信念の正確さや十分さを補完するインタラクションが多く見られた。また、対空席の考えを確認した上でより良い管制プランを提案、補助するなどの行動も見られた。そしてこの分析結果及び航空管制官の認知モデルに関する先行研究の知見を合わせ、航空管制官のチーム認知モデルの構築を行った。これらの成果は今後予想される管制システムの自動化の際、チーム協調の観点からシステムを評価することに寄与すると期待される。