著者
野口 孝一
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.30, pp.121-157, 1987

江戸~明治期の農村における土地所有の研究は,地主制研究と資本主義発達史研究との視点から,これまで数多くの研究成果があるが,都市における土地所有の研究はきわめて乏しい。とくに東京における土地所有については商業資本・産業資本の展開との関連で,また市街地形成の観点から,その実態を把握することはきわめて重要である。にもかかわらず,これまで個別企業の土地集積についての研究はあるが,総体的な研究はごく僅かである。これまでの研究は,明治40年に日刊『平民新聞』に掲載された竹内余外次郎調査の土地所有統計および大正元年3月調査の『東京市及び隣接郡部地籍台帳』をもとに,東京における土地所有状況を考察し,産業資本確立期の状況を明らかにしたものであり,それ以前の土地所有の研究は皆無に近い。本稿では,資本主義成立期以前の,しかも地租改正にともなう土地所有の確定作業が終わり, 「近代的」土地所有権がほぼ確立した時期に着目し,明治11年6月刊行の山本忠兵衛編『区分町鑑東京地主案内』を素材として,集計・加工することにより,この時期の土地所有状況を明らかにしようとするものである。同資料には,東京府の『帳簿』をもとに,大区小区制にもとづき町別,地番順にその坪数と所有者の氏名が記載されている。これを東京市15区別に編集・集計し, 「所有規模別地主数」「1万坪以上所有地主の15区別筆数ならびに所有坪数」「5,000坪以上所有地主の職業・地位」「東京朱引内地主名簿」「東京市15区別1,000坪以上所有地主名簿」等の統計表に作成した結果が本稿である。