著者
工藤 玄恵 野口 鉄也
出版者
東邦大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1986

目的:腫瘍細胞内に発現するMyelcn basic protein(MBP)immunoreactive substanceの生物学的意義を臨床病理学的に解明する.材料と方法:免疫組織化学的検索には10〜20%ホルマリン固定, パラフィン包埋の外科材料や剖検材料から無作為に選出した各臓器原発の腫瘍組織を用いた. 免疫電顕用には術中凍結診断用組織の一部を電顕用固定後用いた. 反応方法はPAP法(前者), ABC法(後者)によった. 一次抗体はいずれも自家製MBP抗体を用いた.結果:陽性細胞は原発部位, 組織型, 分化度等に関係なく存在した. その数や分布は症例により, 又同一症状例でも部位により差があった. 染色性も多様で濃淡あり, 胞体全体が染まるものから一部に限局するもの, 顆粒状のものなどであった. 一方免疫電顕では, 腫瘍細胞内の遊離および付着リボゾームや小空胞内そして細胞表面に反応物を認めた. 核膜周囲腔や粗面小胞体腔, ミトコンドリア, ゴルジ装置等には反応物を見出し得なかった. 尚核内に反応物を有する細胞があった. 対照例は当然ながら陰性であった.考察:本研究においてMBPimmunoreactive substanceは腫瘍細胞に普遍的に存在する物質であり, 腫瘍細胞自らが産生していることを示す結果が得られた. 腫瘍細胞には自らを増殖させる, いわゆるtumor growth factorといえる物質の存在が考えられているが, いまだその物質の性状についての確証はない. ところで, 本研究に用いたMBPによく似た物質の生物学的活性の一つとして各種細胞に対して強いmitogenic activityを有していることが知られている. 我々が現在取扱っているMBPimmunoreactive substanceはその未知なる腫瘍増殖因子の一つではないかと考える.