著者
御厨 貴 野島 博之
出版者
東京都立大学都市研究センター
雑誌
総合都市研究 (ISSN:03863506)
巻号頁・発行日
no.28, pp.141-172, 1986

本稿は,東京都西端のー画を占める檜原(ひのはら)村の選挙の歴史を鳥瞰図的に考察したものである。期間は昭和34年から同58年までの24年間,計7回の選挙を扱っている。おそらく,本稿の最大の弱点は,五日市町に木造の小さな印刷所兼販売店を構える新五日市社の週刊「秋川新聞」に,執筆の主材料が限定されてしまっている点であろう。当然の帰結として,人に誇示できるような天賦の素質を授かった訳でははないのに,筆者は,主要な部分で、人間の知力の一構成要素に全幅の信頼を置かざるをえなかった。その構成要素とは想像力である。新聞と想像力ーこの困難な条件下においても,筆者は能う限りの奮戦をしてみようとは試みた。そこには,それなりの理由もある。新聞は,日本の学的世界の中で,常に副次的な資料として遇されがちではなかったろうか。想像力は,歴史的片々の前に,ほとんど絶望的な沈黙を強いられがちではなかったか。そのような不幸な者たちを率いて,筆者に一体何ができるのかを確かめてもみたかったのである。できばえは,案の上よくない。このような代物がよく調査され,構成もしっかりした論文の聞に挟まれるのかと思うと,恥ずかしさで身体が火照ってしまう。全体として素人のレポートの域をでず,学術論文らしい体裁を整えてもいないのであるから,本稿を通じて,読み手の側にイマジネーション・ウォーズを換起するような箇所が一つでもあれば,それでよしとしなくてはなるまい。以上,これは果して要約にはなっていないが,筆者の意とするところを少しでも汲みとって頂ければ幸いである。