著者
野島 靖子 八若 保孝 舩橋 誠
出版者
北海道歯学会
雑誌
北海道歯学雑誌 (ISSN:09147063)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.10-16, 2012-09

本研究は,恐怖学習を獲得させたラットを用い,恐怖記憶に対する強制運動の影響を明らかにすることを目的として行った.SD系雄性ラット(生後4週齢)を用い,すべてのラットに23.5時間の飲水制限下にて,以下の実験群に分けて実験を行った.運動群:4週間の強制運動(回転速度12~15 m/分,60分/日,5日/週で回転ケージ内を歩行)させた群,非運動群:運動はさせず回転ケージ内に10分間入れた後飼育ケージに戻した(4週間)群,において運動スケジュール終了後に恐怖条件付けを行った.恐怖条件付けはオペラントケージを用いて条件刺激をブザー音30秒,無条件刺激を足底への電気刺激(2.5 mA,29秒,5回/5分)として行った.その後恐怖条件付け学習の獲得について評価するために,条件刺激(ブザー音)に対するすくみ行動を解析した.また,運動群と非運動群の精神的不安度に差が無いかを調べるために,高架十字迷路試験を用いて評価を行った.すくみ行動の割合では,運動群の2日目(11.7±3.8%,n=5)と3日目(0.3±0.3%,n=5)に対して非運動群では2日目(42.7±5.1%,n=5),3日目(22.7±7.9%,n=5)であり,非運動群と比較して運動群のすくみ行動率の有意な低下が認められた.高架十字迷路試験では,運動群と非運動群の間では,全ての項目において有意差は認められなかった.本研究の結果から,強制運動を負荷したことで恐怖記憶が減弱されたことが示された.また,この時運動群と非運動群において精神的不安度に差が無いことも示唆された.以上により強制運動を負荷することで,精神的不安が増強されない程度の恐怖記憶に対してそれを減弱する効果がある可能性が示された.