著者
野沢 敬 玉井 郁巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.4, pp.194-199, 2005-04-01
被引用文献数
1

経口投与可能な薬物を創製するためには,溶解性,安定性,膜透過性のような多様な因子を克服する必要がある.Biopharmaceutical Classification System(BCS)においてClass 1やClass 2に分類される薬物は単純拡散による高い膜透過性を有する場合が多いが,初回通過効果を受けやすい.一方,Class 3に属する薬物は溶解性や初回通過効果の問題は少ないが,単純拡散による膜透過は期待できず,トランスポーターを介した膜透過性改善が望まれる.本研究では,既存薬物の膜透過性をいかにして改善できるか,という課題に対して,トランスポーターに着目した吸収改善手法の提唱を試みた.トランスポーターは300種類以上の分子の存在が推定されており,基質選択性,発現組織,機能が多様であり,各分子の特徴を十分把握すれば消化管吸収を含め薬物動態制御に利用できる可能性がある.小腸上皮細胞において栄養物摂取に働くペプチドトランスポーターPEPT1は基質認識性が広い.PEPT1はプロトン勾配を駆動力とするが,その至適pHは化合物によって異なる.本検討では,PEPT1を介した膜輸送が消化管内生理的pHよりも低い酸性領域で高くなり,通常では30%程度の吸収率しか示さない&beta;-ラクタム抗生物質のセフィキシムに着目した.そして,PEPT1を介したセフィキシム輸送に最適な管腔内酸性pHを酸性高分子を用いて得ることによって,in vivoでの吸収改善を試みた.酸性高分子として腸溶性製剤被膜に利用されるポリメタクリル酸誘導体を同時投与することによりセフィキシムの吸収率を2倍以上に改善することができた.従来,化学構造の変換無しにトランスポーターによる膜輸送改善を試みた例はなく,本成果はトランスポーター活性を利用した新しい薬物吸収改善手法を提案するものである.<br>