著者
玉井 郁巳
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.674-678, 2014 (Released:2016-09-17)
参考文献数
20

医薬品の消化管吸収は血漿中濃度推移に直接的に影響するため,その変動は医薬品の作用・副作用を左右する.飲食物の作用を考えると,肝臓や腎臓など薬物動態を左右する他の組織に比べ,飲食物中成分が管腔内から直接作用し,しかも高濃度に存在する消化管が最も影響を受けやすい状態にある.小腸上皮細胞は薬物動態を決める薬物トランスポーター(輸送体)や薬物代謝酵素の発現が肝細胞と類似しており,相互作用の重大性が指摘されている肝臓と同様に小腸における相互作用を考慮しなければならない.消化管での医薬品と飲食物との相互作用はグレープフルーツジュース(以下,GFJ)の影響の大きさから注目を浴びている.すなわち,GFJは小腸上皮細胞内に存在する薬物代謝酵素CYP3A活性を低下させ,その基質薬物(被害を受けるという意味で以下victimと呼ぶ)となるカルシウムチャネルブロッカーなどの血漿中濃度が増大し,毒性が生じることが20年以上前に見いだされた.本相互作用の原因となるGFJ成分はフラノクマリン類であり,CYP3Aを不可逆的に阻害し,併用されたvictimの血漿中濃度を顕著に上昇させる.一方,相互作用の原因として薬物輸送体の関与も明確になった現在,医薬品の臨床開発における相互作用試験の必要性が指摘される消化管輸送体は,P-糖タンパク質(P-gp,ABCB1)とBreast Cancer Resistance Protein(BCRP,ABCG2)である.いずれも小腸上皮細胞管腔側膜に発現し,相互作用による活性低下はvictimの血漿中濃度増大につながる.したがって,相互作用を惹起する薬物(被害を与えるという意味で以下perpetratorと呼ぶ)の管腔中濃度Ciと阻害定数(KiあるいはIC50)に基づく相互作用評価が必要とされるに至っている.上述のような消化管の特徴を考慮すれば,フルーツジュース(以下,FJ)などの飲食物成分が小腸輸送体に対するperpetratorとなる可能性も十分考えられる.
著者
野沢 敬 玉井 郁巳
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.4, pp.194-199, 2005-04-01
被引用文献数
1

経口投与可能な薬物を創製するためには,溶解性,安定性,膜透過性のような多様な因子を克服する必要がある.Biopharmaceutical Classification System(BCS)においてClass 1やClass 2に分類される薬物は単純拡散による高い膜透過性を有する場合が多いが,初回通過効果を受けやすい.一方,Class 3に属する薬物は溶解性や初回通過効果の問題は少ないが,単純拡散による膜透過は期待できず,トランスポーターを介した膜透過性改善が望まれる.本研究では,既存薬物の膜透過性をいかにして改善できるか,という課題に対して,トランスポーターに着目した吸収改善手法の提唱を試みた.トランスポーターは300種類以上の分子の存在が推定されており,基質選択性,発現組織,機能が多様であり,各分子の特徴を十分把握すれば消化管吸収を含め薬物動態制御に利用できる可能性がある.小腸上皮細胞において栄養物摂取に働くペプチドトランスポーターPEPT1は基質認識性が広い.PEPT1はプロトン勾配を駆動力とするが,その至適pHは化合物によって異なる.本検討では,PEPT1を介した膜輸送が消化管内生理的pHよりも低い酸性領域で高くなり,通常では30%程度の吸収率しか示さない&beta;-ラクタム抗生物質のセフィキシムに着目した.そして,PEPT1を介したセフィキシム輸送に最適な管腔内酸性pHを酸性高分子を用いて得ることによって,in vivoでの吸収改善を試みた.酸性高分子として腸溶性製剤被膜に利用されるポリメタクリル酸誘導体を同時投与することによりセフィキシムの吸収率を2倍以上に改善することができた.従来,化学構造の変換無しにトランスポーターによる膜輸送改善を試みた例はなく,本成果はトランスポーター活性を利用した新しい薬物吸収改善手法を提案するものである.<br>