著者
上野 敬一郎 野添 博昭 坂田 祐介 有隅 健一
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR HORTICULTURAL SCIENCE
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.409-417, 1994 (Released:2008-05-15)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

鹿児島県下で, 新しい系統と思われる2種類のLycorisが見出された. これら両系統は著者らの諸特性調査により, 同一起源の雑種, つまりL. traubiiとL. sanguineaの交雑により生じたものであると推定されている. 本報はこれら両系統の成立を実証するため,人為的な交雑を行い, 両親種とこの2系統のLycoris(L. sp. AおよびB) ならびに得られた交雑実生にっいて形態学的, 細胞学的な観察から比較検討を行うとともに, 両種の分布ならびに開花期の調査も併せて行った.L. traubii×L. sanguineaおよびL. sanguinea×L. traubiiの交雑における結実率は, それぞれ7.3%および30.1%であった. 正逆双方の交雑で得られた実生の形態は, 両親種の中間的形質を示し, 実生の出葉期,葉の光沢, 葉先の形および葉長/葉幅比などの形態的特性は, L. sp. AおよびBとそれぞれ一致していた.また, 交雑実生の染色体数ならびに核型は, 異数体や部分的に染色体欠失を生じた個体も存在したが, 基本的にはL. sp. AおよびBとそれぞれ一致する5V+12R型と4V+14R型であった.L. sanguineaおよびL. traubiiの分布ならびに開花期を調査した結果, 九州の中~南部にかけて秋咲き性のL, sanguineaが存在することを見出し, 特にL. sp. AおよびBが濃密に分布する鹿児島県山川町成川で,開花期が完全に一致するL. sanguineaとL. trattbiiが同所的に分布する事実をつきとめた.以上の結果からこの2系統のLycorisは, 秋咲きのL. sanguineaと9V+4R型のL. traubiiとの自然交雑により, 鹿児島県薩摩半島南部, おそらくは山川町成川で誕生したものであろうと推断した.